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トリコロール/青の愛のakrutmのレビュー・感想・評価

トリコロール/青の愛(1993年製作の映画)
4.2
著名な音楽家である夫と幼い娘を交通事項で失った女性が、喪失を乗り越えて新たな人生を歩みだすまでの姿を描いた、クシシュトフ・キェシロフスキ監督のトリコロール三部作の1作目。ここで言うトリコロールは、フランス国旗(の青、白、赤の3色)を指していて、フランスのスローガンである「自由、平等、友愛」にそれぞれ対応していると言われている。

かなり以前に3部作を全て見たときには、第2作目の『白の愛』が一番のお気に入りだったが、今回あらためて再鑑賞してみて『青の愛』も負けず劣らず素晴らしい作品だった。青という色彩から受ける印象としての冷たさ、ストーリーで暗示される主人公ジュリーの受けた境遇の冷たさ、そして主人公を演じるジュリエット・ビノシュが表情や演技で表現している冷たさが見事に調和しているのが素晴らしいのである。

一見、喪失と再生の物語のように見えるが、実はそうではない。主人公が過去の束縛から真の意味で開放される(=自由になる)までの物語なのである。過去の束縛とは何かと言うと、夫から受けていた束縛である。実際に作曲していたのは妻のジュリーであり、著名な作曲家である夫ではないことが作中でも暗示される。そのことを公にしないように夫から束縛されていたと考えるのが普通であり、さらに解釈すれば、そういう事実を隠すために結婚したと言えなくもない。なので、ジュリーが(娘の死は悲しんでも)夫の死を悲しむ姿は一切描かれていない。(例えば、葬儀の様子をTVで見ているときのジュリーの動作に注目してほしい。)

そんな彼女は過去をすべて捨て去って世捨て人のような生活を送ろうとするが、パリに上京して一人で生活を始めたら、それがなかなか上手くいかない。そして、単純に過去を捨てるだけでは過去の束縛から自由になることはできず、他人と関わり合いながら新たな人生に踏み出すことが必要であると悟るのである。その際に重要な役割を果たすのが、同じアパートメントに住むストリッパーの女性。演じているシャルロット・ヴェリは、エリック・ロメールの『冬物語』で主演したときはそれほどではなかったが、本作ではなかなか魅力的である。

後半に出てくる裁判所のシーンが、『白の愛』のシーンと重なっているのも面白い。『白の愛』でヒロインを演じるジュリー・デルピーがちょっと顔を見せているし、ジュリーが探している弁護士が彼女の弁護(の補佐)を担当している。一方で、『白の愛』にもジュリエット・ビノシュがちょっと顔を見せることになる。
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