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幸せはシャンソニア劇場からのtakのレビュー・感想・評価

3.8
フランス映画にはよき伝統がある。それは人間を見つめるやさしい視点。人は生きていく上でうまくいくこともあれば、しくじることもある。善なる面も悪しき面もある。ステレオタイプに人を分類するように描くハリウッド映画とは違う。 ダメ親父にもいいところはあるし、悪役も徹底的な悪としては描かれない。売れないコメディアンは歌で才能を開花させる。2004年の傑作「コーラス」のスタッフとキャストが再び音楽で僕らに感動を与えてくれたのが本作。この愛に満ちた映画で描かれる人間模様は、しあわせな余韻を僕らに与えてくれる。

1930年代の不況で閉館に追いやられたシャンソニア劇場。その立て直しの為に、バックステージで劇場を支えてきた裏方2人と素人芸並のコメディアンら失業者たちが立ち上がる。特にジェラール・ジュニョ演ずるピゴワルは失業したことで愛する息子と暮らせなくなってしまう。彼らとそれに加わった新人女性歌手ドゥースの奮闘。しかしドゥースが他の興行主の目にとまる成功を収めたのみで、彼女を失って劇場はますます危機に・・・。しかし、ずっと引きこもっていた”ラジオ男”マックスがドゥースの歌声を聴いてから事態は一転。眠っていた才能を再び開花させたマックスの下で、劇場は再び歌声で満たされる。この辺りはミュージカル映画的な演出で実にテンポもよく楽しい。だがその劇場の成功の影では、それを面白く思わない人々もいた。

30年代のヨーロッパの不穏な空気。そうした時代を描くことで、単なる失業者の成功物語で終わらせないところが物語に深みを与えてくれる。劇場近くのカフェでは時の政治体制でメニューが移り変わっていくし、この映画の悪役もそうした時代に乗せられた人物として描かれる。そうした人間模様と時代背景とのバランスのよさ、脚本の巧さ。まぁ、父子ものとして泣かせどころに持って行くところや物語の結末も、”予定調和”的で意外性はないかもしれない。でもそれだけに、誰もが幸せになるために懸命に生きているということが感動をもたらしてくれる。息子との劇的な再会もなく、夜の劇場前で終わる言葉少ななラストシーン。だが、そこには確かに幸せな結末がある。こういうじわーっと感動が染みていく感じが、いい余韻となって銀幕のこちらの僕らにも幸せを運んでくれる。息子ジョジョを演じた少年は、この映画のプロデューサーであるジャック・ペランの息子(「コーラス」にも出演)。
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