Eike

第9地区のEikeのレビュー・感想・評価

第9地区(2009年製作の映画)
4.1
「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのピーター・ジャクソンが製作に噛んだSF映画。
監督・脚本はこれがデビュー作であった南アフリカ出身のニール・ブロンカンプ

スター不在のキャストに低予算の作品で、物語として説明不足な点が多いなど完璧とは程遠い作品ではありますが、久々に映画らしさに満ちたエンターティメントになっており、新人監督のデビュー作であることを考えてみれば正に驚異的な出来。

南アフリカのヨハネスバーグを舞台にしたエイリアン達を巡る物語でかつてのアパルトヘイト政策に対するアレゴリー的な側面もありますが、それが主題のポリティカルSFではありません。
純然たる娯楽映画として楽しめます。

・疑似ドキュメンタリーとニュース・フィードのスタイル
オープニングはまたもや疑似ドキュメンタリータッチで中盤はごく普通のドラマ、そしてクライマックスにはヘリコプターなどからのニュース映像を差し込み臨場感を醸し出すことに成功しております。
・プローン=えび野郎と呼ばれるエイリアンの造形
誰もが嫌悪感を覚えずにはいられないほど「醜悪なその姿」。
これが何より重要な点でマイノリティとして人間側から疎外されるべき存在として見る側をとりあえず納得させてしまいます。
それが逆に主人公のクリストファー・ジョンソン(エイリアンです)の高い知性と彼の幼い息子(よく出来た子なんです)との情愛を際立たせております。
・主人公のキャラクター
主人公のウィーカス(シャールト・コープリー)は典型的な中間管理職。
それがひょんなことから「人類史上もっとも不運な男」となってしまいます。
彼の苦難と苦闘こそが物語の根幹となっているのですが徹頭徹尾、小心者で自己中心的な彼の言動は非常にリアルで嘘臭さがない。
そんな頼りない主人公だからこそクライマックスでの彼の決断と行動が感動を呼ぶのだ。
主演の彼、この当時の時点ではプロの役者ではなかったそうで、びっくりです。
・敵の設定
本作のクライマックスでは凄まじいバトルシーンが繰り広げられます。
殆どこのクライマックスのためにすべてがあったのではと勘繰りたくなるほどの力の入れようですが上手いなぁと感心するのは「誰が誰と何のために戦うのか」と言う点。
良く考えてみればこの流れはかなり意外な展開なのに全く破綻が無く自然に思えること。
それはこのクライマックスに至るまでの描写にいかに説得力があるかということの証ですね。

そのクライマックスのアクションシーン、スペクタクルのスケールや技術面を比較すれば2009年の同時期に公開された「トランスフォーマー:リベンジ」の足元にも及ばないでしょう。
しかし映画的興奮度というバロメーターでとらえてみれば本作の方が遙かに上です。

主人公の恐怖、悲しみ、そして怒りが爆発するからこその映画的快感なのだ。
凝ったデジタル紙芝居を見せることに汲々としているハリウッドには見習ってもらいたいものであります。

※本作の公開から10年以上の時間が経過しておりますが、その間に続編製作の噂が絶えたことはありません。具体的なアナウンスはいまだありませんが、ブロンカンプ監督自身が最近、企画の存在を改めて認めておられます。
こうした案件はいったん動き出すと早いですからそろそろ本格的な動きがあってもおかしくなさそうですね。
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