らんらん

「A」のらんらんのレビュー・感想・評価

「A」(1998年製作の映画)
5.0
 とにかく傑作。
 1995年3月の地下鉄サリン事件。1996年から97年にかけて、森達也監督が教団広報部副部長の荒木浩氏に密着したドキュメンタリー。

 荒木浩という一人の青年を追うカメラ。解脱を目指して出家したはずの彼は、「社会」、彼らの言う「現世」に思い切り揉まれている。

 何故彼らは、「尊師」を通さないと解脱出来ないと思うのだろうか。解脱は自由に目指せば良いと思うけど、何故一人の人間にあれほど執着するのだろう。教団幹部である別の信者は、社会の矛盾(例えば戦争で人を沢山殺しても、勝者となれば罪にならない)に完璧に答えられたのは尊師だけだと言う。
 作中、メディアのインタヴュワーに対し、ある信者が「あなた達の中には、既にイメージがある。決まった解釈が既にあるから、何を言ってもすれ違う。誤解前提なら喋らない方がましだ。」というような事を言う。非常に的確で、インタヴュワーは言葉に詰まった。
 「尊師」がどんな人物だったか私はニュースでしか知らないが、対象はそれもまた彼らのイメージ、虚像の範疇ではないのだろうか。洗脳かもしれないが、その依存性は未熟さから来るのか、自己肯定感の揺らぎから来るのか。それとも、何だろう?ある意味彼らは、私を含めた「現世」の人間に酷似している。
 そしてこの瞬間、森監督はただ一人、罠から抜け自由に空を駆け巡る。いやカメラを構えるのである。

 色んな感想があるだろうけど、とにかく傑作。
 森監督の誠実さには驚きしかない。新作の公開も間近で楽しみ。

 荒木氏はスケジュールの間隙を縫い、高齢の祖母に会いに行く。そこは泣いちゃうよ・・。5行くらいで書くつもりだったのに、めっちゃ書いてる。
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