スローモーション男

「A」のスローモーション男のレビュー・感想・評価

「A」(1998年製作の映画)
4.2
 『福田村事件』を観るまえに森達也監督の過去作を。

 森達也が一躍ドキュメンタリー監督として有名になった作品であり、あのオウム真理教の内部にカメラを持っていき信者たちの生活を撮ったドキュメンタリー。

 オウム広報の代表、荒木浩を筆頭にオウム信者たちを描いている。

 僕が初めてオウム真理教を知ったのは小学4年生の時にNHKで特番を見たとき。その後、何度もテレビで特集がやっていて見たのだが、信者や教祖麻原の異常さが目立っていて、新興宗教のイメージを悪いものにした。
 だが、この映画ではそのような異常性は少なく、強く信仰している個人という描き方をしている。

 信者たちは不味そうなご飯を食べ、謎のお経を唱える。そして宗教弾圧をする人々や警察、マスコミと戦う。
 また、自分たちの記者会見をテレビで見て笑いあったりしているシーンはなんだか微笑ましい。

 オウムに同情することは出来ないが、マスコミが勝手に取材を進めてきたり、中盤の警察の不当逮捕などはさすがに叩きすぎだし、こっちのが異常にしか見えない。

 サティアンの取り壊しがあり、事務所もなくなり、どんどん居場所がなくなっていく。荒木は信じているものに迷いがないが困惑していく。なぜここまでされるのか。

 最終的にこの映画に明確な結論は出ない。まっすぐ生きろというだけ。でも答えなんて出せないと思う。

 その後、荒木は教団と対立して省かれたりしているみたい。ただ、地下鉄サリン事件の慰霊式には何度も献花に訪れている。それをして罪が許されるわけではないが、この映画で近隣住民に叩かれた際「そんなの知りませんよ」と言っていた頃よりも誠意はあると思う。

 このオウム事件は麻原や幹部のせいで教団すべてが叩かれることになってしまった。というかそれは当然のこと。しかし、この映画を観ると集団ではなく個人で見ることも重要なのではと考える。
 オウム真理教はまったく理解できないが、荒木をはじめ信者たちも人間なんだと初めて理解できたかな。

 森達也は悲しみの監督のような気がしました。原一男は怒りの監督で、森達也はこうした作家性を持っているのかなと思いました。