【社会のイジメ】
原一男系アクションドキュメンタリー監督に森達也がいる。昨年『FAKE』で話題になったが、彼は昔オウム真理教の広報担当の荒木浩を追ったドキュメンタリーを撮っていた。その名も『A』だ。
麻原彰晃が地下鉄サリン事件で逮捕され、トップ不在となったオウム真理教を内部から撮ることにより、今まで知らなかった壮絶な日々が明らかにされる。
マスコミは一つでも特ダネをゲットする為に執拗に、嫌がらせレベルで広報担当の荒木浩に迫る。時には他社の者と喧嘩を始める。その様子を観ると単純にマスゴミとして片付けることが出来ない。一人の人間として、失敗したらクビになるかもしれないからガムシャラに頑張っている組織の捨て駒ならではの哀愁があるのだ。
オウム真理教側も、ジョージ・オーウェルの世界さながら社会の厳しい目をかいくぐり、もはやトップ不在で右も左も分からず、教団をどう動かしていいかも分からず、信じ続けようとする姿は切なくなる。
そう、これは我々が抱く偏見への挑戦だ。確かに、オウム真理教信者の話し方や修行は気持ち悪さを感じる。マスコミのもはやイジメレベルの取材には辟易する。
しかし、本ドキュメンタリーを通じて社会から個の関係へと微分された世界を目の当たりにして価値観が揺らいだ。
スケールのデカいイジメでしかなかった。
それにしても、警察のあのやり方だけはゲス過ぎる。あまりのショッキングさに唖然とした。