1960年、パリ郊外でカフェを営むテレーズ(アリダ・ヴァリ)は、ある浮浪者が16年前にゲシュタポに連行された夫アルベール(ジョルジュ・ウィルソン)にそっくりなことに気付くが、男は記憶を失っていた。テレーズは彼に話しかけ、過去を思い出させようとする。
待つ女と帰還する男。何度か観たような設定だけど、戦争で男が傷つく場面や、女が待ち続け葛藤する場面がないのが特徴だ。
2人が時間を共にして関係を取り戻そうとする描写が延々と続く分、余計に虚しさが広がる。
「ひまわり」ほど壮大ではないけれど、戦争に翻弄された女性の哀しみと情熱が繊細に描かれていた。
終盤になって、実は男は全くの別人で、テレーズが心の穴を埋めるために生んだ幻想のように見えてくる。
ただ逆に、実はアルベールは記憶が戻ったけれど、前の生活には戻れないと悟って逃げようとしたようにも見える。彼が名前を呼ばれて、両手を挙げて固まる姿が印象的だった。
男は何者だったのか、無事に生きているのか、真実はわからないけれど、これからも待ち続けることを選んだテレーズの姿がひたすら哀しい。