半兵衛

愛人ジュリエットの半兵衛のレビュー・感想・評価

愛人ジュリエット(1950年製作の映画)
3.5
邦題は艶のあるラブドラマみたいな内容を想像させるが、実際は藤子・F・不二雄のようなちょっと不思議なファンタジー映画。

牢屋で絶望の淵に突き落とされた主人公の青年が現実を忘れるため逃げ込んだ妄想世界は記憶がない人々が生活している村だった…というストーリーで、クラシックな演出のリズムが緩慢で中弛みしてくるものの時計のない針といった小道具や自分の記憶が無いことに苦悩し唯一現実の記憶のある主人公から過去の思い出を聞いて心を慰める村人たちのドラマなどが『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』や『ゼルダの伝説 夢を見る島』のように不思議な夢を彷徨い歩いているような感覚になり結構楽しめた。

現実世界では主人公の恋人だった女性が妄想世界にも登場し、彼女の記憶を取り戻させようと奮闘する主人公とその記憶が思い出せない彼女との噛み合わないがそれでも瑞々しい恋の感情で結びあっている関係性とすれ違いによる結末が切ない。そしてそこから現実に戻ってきた主人公と恋人の苦い顛末がやるせなくなる。

妄想を肯定的に受け入れるこの時代の作品とは思えないラストが心に残る。

ちなみにジェラール・フィリップだからこの役が二枚目として成立するが、恋人のために店の金を盗んで逮捕されているのにそれを悲劇のように振る舞っている男ってよくよく考えたら結構なダメ男のような。そりゃ恋人もああいう対応になるわな。
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