くりふ

幸福(しあわせ)のくりふのレビュー・感想・評価

幸福(しあわせ)(1964年製作の映画)
4.0
【オム・ファタールならしあわせ】

随分前に一度見ており、仏本国の評価で並ぶコトバ…衝撃的、破壊的、恐ろしい、ホラー映画のよう…というインパクトは、確かにその時は、ありました。

アマプラ見放題で久々に再見しましたが、とても理性的な映画で、だからこそ怖さが引き立っておりました。ある視点からは、ごく当たり前のことを描いているのですよね。

…とりあえず一番衝撃だったのは、煎餅みたいな色とサイズの乳輪ポロリでしたが!w

愛とは欲望に過ぎず、恋愛感情とは自堕落なもの。実は境涯の低いひとの有り様を、知的に端正に、カラフルに…でも人工的に、仕立ててしまった。底意地悪いが正直な映画ですね。

この時代にこう描くのは、やはり女性監督ゆえだと思う。男だと問題意識もないでしょう。

映画的分類でいえば、ファム・ファタールではなく、オム・ファタールが主人公なのですね。天然タイプで、女を利用して“しあわせ”に酔うことに、まるで疑問を持っていない。

これがフィルム・ノワールなら、ファム・ファタールは男を破滅させ自滅もしたり。が、オム・ファタールが主人公だと都合よく収まってしまう。この差は何?と映画は突きつけてくる。

家族構成のパーツとしても、女は代わりが利く。でもこれは、子供もパーツ利用できる“三つ子の魂百まで”期間内だからでしょうけれど。この時期に設定したのもイジワルだ。w

冒頭と結末とで対になる、家族“Gメン歩き”がわかり易い。子供の位置が変わっている。

とても良くできた映画ですが、人物や語りに魅了されたというより、構造の巧さでねじ伏せられた感がありますね。面白さでいえば、例えばロメールの方に、私は手応えを感じます。

優生学と性欲を対にしたルノワール『草の上の昼食』の引用などにもナルホド、と感心するのですが。

そして、モーツァルトがこんなに、皮肉に響くのも珍しい。本人がこの映画を見たら、オレの音楽をこんな哀しい物語に使わないでくれ!とかクレームつけそうだ。www

何にせよ映画史に残る、残すべき映画でしょう。時間を置いて、また見たいと思わせますね。

<2023.12.1記>
くりふ

くりふ