Ricola

リラの門のRicolaのレビュー・感想・評価

リラの門(1957年製作の映画)
3.8
ルネ・クレール作品は、いつもとても理想主義的な内容や結末が多いと感じていたが、この作品はそうでもなかった。

明るくて陽気な雰囲気が漂い、下町の愉快で個性豊かなキャラクターというのは変わらない。
しかし全くの夢物語ではなく、現実に即したような展開が少しほろ苦い。


酒場で奏でる芸術家の歌が随所に流れるが、ストーリー説明にも役に立っている。
完全に巻き込まれた側であり、なんだか微妙な立場の芸術家だからか、途中から特に見守り役に徹する。

事件の詳細の新聞記事を読む声のとおり、子供たちがその「バルビエごっこ」をする様子が店の中から窓越しに見える。
その見事でかわいい「再現」のおかげで、その事件の内容がよくわかる。

主人公ジュジュはどうしようもないけれど、なんだか憎めない。
犯人の特徴を聞いているときのジュジュの表情が、心の声だだ漏れな感じだったり笑
そもそもお人好し過ぎて、街で話題の事件の犯人ピエロを匿ってしまうのだから…。

制限した生活をしいられているピエロがラジオから流れるクラシック音楽に合わせて体操している様子がおかしくて笑ってしまう。

「自分のことで精一杯だ。他人のことは考えてない」
利己的過ぎる男の発言。
悪びれていないのがまたたちが悪くて、少しあっけにとられる。

個性豊かな登場人物たちのキャラクターがちゃんと活かされており、彼らの心情の交わりも丁寧に描かれている。

ハッピーなだけでなく、哀愁がわりと終始漂っており、人生の虚しい部分を強調するようなストーリー展開にちょっとだけ胸が傷んだ。
しかしラストに、ルネ・クレールのいつもの優しさの片鱗か見えた。
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