カラン

魚影の群れのカランのレビュー・感想・評価

魚影の群れ(1983年製作の映画)
4.5
感動的なまでに力強いカメラ。やっぱりエイゼンシュタイン閣下が言うように、エモーションを伝えるには切ってはいけないだねー。

マグロはもちろん立派。大間の漁村の風情も素晴らしい。漁師の旗や祭の提灯がスクリーンをいっぱいに埋め尽くすショットが2、3回あるわけだけど、そういうのはカーテンショットのような塩梅でさらっと使われていた。

十朱幸代さんが、夏目雅子演じるトキ子の母親だが、幼い頃に家を出ていった苦悩の母親役。この十朱幸代と緒形拳の土砂降りの中の、長〜いチェイスはとても感動的。ひたすら十朱幸代が走って逃げる。暗いパブの中での呪いのやり取り、甲板の股引姿の男へ向けたへべれけ女の「抱いてよ」。船内の暗がりでのラブシーンも私が観た愛の運動のなかではベストかもしれない。一匹狼の漁師と堕落した女の慰め合いをゆっくり長回し。クズの男も絡んで、夜の港で想いが乱れる。素敵な花火付き。

夏目雅子は真っ直ぐ。佐藤浩一本人ではなく、映画内での彼の扱いがぞんざいで、夏目雅子が父親に怒り出した後から、映画は少しバランスを崩したか。2つの家、つまり緒形の家と佐藤浩一の家を描くとなると、群像劇のような展開になるが、クロスカットなどやりたくないであろうこの映画は、ちょっと矛盾を抱え込んだか。救難信号の時の漁船と組合の無線のやり取りですら最小限のカットだからね。



80年代の映画であるが、音声はモノラル。レンタルのDVDは、人間の声の上の帯域から歪んでおり、クラリネットかフルートかの音が割れているように聴こえる。人間の声は問題ないかと思ったが、考えてみると凄まじいズーズー弁で、6割くらいは確実に聞き取れなかった。青森の人が試聴したら、もしかしたら人間の声もダメだと判明するかも。(^^)

フィルムはさまざまな青を見せる。オープニングで見せる夜の帷に夕日が溶けて紫に近い青や、沖に出てからの大きな波に光が乱反射した青、緒形拳のセーターと血をコントラストに使った青。マグロの煌めく背面。色は非常にいいが、フォーカスがいただけない。顔がいつもぼやけている。Blu-rayが出ているが、あのシリーズのリマスターは、、、期待していいものやら。はて。
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