アンゼルム・キーファーという1945年生まれの美術家の、大規模な工場のような各地のアトリエでのインスタレーションのレトロスペクティブと、パウル・ツェランの詩の朗読と、ゴーストの囁き、はしご車まで使う巨大絵画の制作風景、そして幼年期のキーファーを演じるヴェンダースJr.?が、画面がカラーに戻ったタイミングで、キーファーと肩車している。
これはドキュメンタリーではない。3Dで視聴。
☆キーファー
アンゼルム・キーファーは1945年、ヒトラーが自殺しドイツが降伏する1月ほど前に生まれた。巨大なタブローを制作していることは知っていた。今回の3D映画でアトリエに招かれて、キーファーに案内してもらったら1週間くらいかかりそうな「キーファーと戦後ドイツを巡る表象に関する展示会」を自分のために開催してもらったような気分になった。世界中で空撮した写真を鉛の上に転写した「地球の肌」という作品は、地球の表面を集めたものであるが、2人がかりでグローブつけてめくるのだが、鉛中毒で具合が悪くなりそうなのが面白かった。あと、螺旋状の階段に灰色の服がいっぱいハンガーに掛かってる。それを一つ、また一つとキーファーが放り投げる。あの服も鉛で染色したのかもね。地面に落下する時、大きいのも、小さいのも、べちゃ。べちゃって何度も。耳の内側にへばりついて、取り憑かれる。あれは、死のパフォーマンスだよね。かなりやばかった。
☆☆ツェラン
パウル・ツェランは現在のウクライナの辺りに1920年に生まれ、ドイツ系ユダヤ人の両親は強制収容所に送られて死んだ。ソ連によって解放されてルーマニアにいたが、パリに移ったようだ。1970年にセーヌ川で遺体が上がった。自殺らしい。戦後のドイツ語を使う作家の中では極めて重要な作家で、日本語でいくらかの詩を読んでいたが、彼に出逢えた気はしていなかった。本作ではツェラン本人の朗読の録音が再生される。今さらなのだが、素晴らしかった。
☆☆☆奥行き系3D
奥行き系の3Dである。手前に飛び出す系は寄り目気味の視差を活用するが、本作は奥行き系なのでろんぱり気味の視差を活用するので、気持ちいい。両目を左右に開く感じね。だいたい寄り目にしたついでに無視を決め込んで妄想ばかりの現代社会にすっかり浸かっている皆さんは、目を開く、いや、啓く、つもりでぜひ劇場にお出かけください。
☆☆☆☆土砂降りのヒビヤで
朝から土砂降りなので、海パンみたいな半ズボンと胸に「芸術」と刺繍の入ったTシャツとサンダルで気合いを入れて日比谷に行ってみたぜ。会場はシャンテだと勘違いしていたので、ヴェンダースの3Dのポスターがないないない。土砂降りの日比谷で海開きみたいな不幸な格好で青ざめることしばらく、tohoシネマズ日比谷っていう別のシアターなのだと分かった。で、グーグルマップを見ながらハイソなエリアを行きつ戻りつして(15分くらい)、皇居のお堀が見えちゃうあたりにやって来た。おー、いいねー、英国のエンパイアシネマさんよりもいいんじゃないのと。おっきいねー、看板ないのねー。へー、ミッドタウンっていうんだー。
☆☆☆☆☆画質と音質
受け付けで「3D眼鏡を見せろ」と3人くらいに囲まれて、持参したIMAX 3Dってロゴの入ったやつを出すと、ダメだ、と。売店で新しいのを買ってくれと。規格が違うようだ。走ったのでビールも一緒に買うことにした。
ど真ん中の席、もちろん。
大スクリーンは美しいカーブド。これが奥行き系の3Dに合うんだな。最近、映画館で観た映像の中では1番良い。ディゾルブって3Dの方が良いんだね。
サウンド。首が藁や、針金の籠や、カメラになっており、土が裾についたウェディングドレスのあいだを、カメラがクレーンで回り込みながら撮影する。ドレスのゴーストの囁きがたくさん。真横から、真後ろからも、本来の環境ならば聞き取ることができるのだろう、ゴーストたちの声を。
ヴェンダースの3Dは今劇場で観ないと、永久に観れないかもと、初日の一発目に行ってきたのでした。大満足。