都部

ドラえもん のび太のワンニャン時空伝の都部のレビュー・感想・評価

3.1
本作は突発的なドラ映画完走月間の中で、最も世間評価と自己評価の乖離を感じた一作である。祖母から授かったけん玉という小道具を有効に活用したのび太とイチの関係性の始まりと終わりはたしかにエモーショナルであるが、その為に配置された物語と登場人物達の雑多な位置関係には文句があるし、それまでのドラ映画と比較して明確に尺が短く、それに沿った構成が旧劇の駆け足ぶりをより強調する結果を招いている。

まず語り部であるのび太とイチの関係に関しては不足はない。
時を超えた友情をツイストを絡めて描くことは、時を超えた繋がりから始まるドラえもんという作品で描くには適切なもので、献身的なイチの在り方を観客の涙を的確に誘う挙動と共に作劇上で展開しているのは見事だ。他の映画と比較すると旧劇では最も尺の短い映画であるが、その関係性に安易さを感じないだけの描写が織り込まれている。また二人を繋ぐキーアイテムであるけん玉の予想外の活躍は、作中の要素の噛み合いを感じさせる風通しのよいもので非常に良かった。

逆にこの映画に文句があるとすれば、それ以外の全てだ。

この映画は前述したのび太とイチの友情劇の為にお膳立てされたように感じられる浅慮な舞台設定と人物の距離関係が目立つ作品で、旧劇場映画で見られた放置した国家の急成長も過去作の再繰の域を出ない。

たとえばワンニャン国を巡るパートがあるが、人間の性格/役割をただ擬人化した犬猫が担っているだけの構図の連続は、この特殊な舞台の旨味を活かしているとは到底思えない。元が動物ならではの独自に発展した文化や生活の挙動などがまるで見られないのは勿体無いですよね。

またドラえもんにも動機を用意する為に取って付けたような雌猫が登場するが、この主題歌を作中で流す為&水商売の迷惑客と化すドラえもんの強い奮起の理由の為だけに存在するシャーミにキャラとしての魅力はなく、作品を通した強いドラマを展開するのび太とイチの関係性と並列して語られることでその薄っぺらさが際立っているのでまったく乗れないというのもありました。こののび太以外にもドラマを作る為に、面々に外見が似た犬猫と関わらせて最後の場面でのび太とイチの距離関係と同じように扱って同じように最後に涙させるのは、この作品のメインであるのび太達の関係の重みを自ら軽くするような流れで、これどうかと思うんですよね……(二人の関係を目にして感動するとかじゃダメなの?)

のび太とイチの話だけで映画としては充分なのに、作ってる方がこの二人だけのドラマでは不十分であると心から信用しきれてないのではないかと疑ってしまうような手つきは明確にノイズですよね。作品の敵役に対する義勇軍/反乱軍擬きみたいな活躍も、作品を通した命題を伴わない表面的な展開に過ぎず、諸々を鑑みると到底 集大成と言えるような完成度とはないというのが個人的な評価です。
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