松井の天井直撃ホームラン

おのぼり物語の松井の天井直撃ホームランのレビュー・感想・評価

おのぼり物語(2010年製作の映画)
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☆☆☆★★★

※ 鑑賞直後のメモから

東京を舞台としながらまるで大阪人情映画の様で、今年を代表する秀作だと思います。

うだつの上がらない漫画家志望青年が、上京しての泣き笑い物語は。都会に出て来て生活する、全ての若者達に共通する苦い思い出が、たくさん詰まっているでしょうね。

いきなりゲスト出演で登場する、江口のりこの可笑しい不動屋さんとのエピソードがあり。始めの内は上京して住み始めた、ボロボロのアパートでの生活がスタートする。
不思議な住民達。奇妙なロシア人ロッカーが登場したり。占部房子親子の子供との触れ合いに、ホモ男に言い寄られたり…と言ったエピソードが続く。

それらのエピソードの合間に〝先輩〟肘井美佳との再会から。どうやらこの彼と先輩には、仕事は違えども似た様な状況に置かれているのが、次第に分かって来る。
それこそが、多くの若者達にも共通する悩みなのだ。

やがて彼らアパートの住民達との接点は、或る出来事からなくなってしまう。この住民達とのやり取りが、映画の中でのエピソードとして楽しいコメディー要素だった。
中盤は肘井美佳との。先輩後輩の間柄ゆえに、恋愛感情とも言えない。お互いに似た環境で生きる《戦友》に近い感情が湧き上がって行くと同時に、父親の病気と彼女の真実。

後半になると、住民達とのエピソードがなくなって来るので。話のバランス的に、若干の違和感が少し出て来る。
主に、東京と大阪の行ったり来たりの展開になるが。この辺りから、漫画雑誌の編集部員役で八嶋智人が登場するのだけれど。このハ嶋とのやり取りが笑わせてくれるのがとても面白い。久し振りにハ嶋智人が良い。
「何でもっと頑張らないんだ!」と語る台詞には、全ての若者達に対する応援のメッセージが込められいる気がします。ちょっと儲け役のキャラクターではありました。

もう1人、母親役にはキムラ緑子。
彼女は後半だけの登場だったのだが、如何にも大阪のオカンと言った演技で最後を締めてくれる。

思わず切なくなる場面が数多くありますが。個人的には前半と後半にあった、肘井美佳と2人乗りをする自転車の場面がとても良かった。
前半の2人乗りには、同じ境遇としての友情を感じていた感じでしたが。後半での2人乗りは、淡い恋心と共に。離れ離れになってしまう事の悔しさ、お互いにもう一歩踏み込めない後悔の想い。
そんな切なさが巧く表現されていた様に思います。

彼女との絡みは、段々と《戦友》から《恋愛》へとシフトして行くのですが。元々の友情要素が強い間柄だった為に、なかなか恋愛へとは発展しない。だからこそ、観ているこちらとしては「あゝ、分かるなあ〜!この胸が詰まる感覚!」…と。
映画中盤の場面で、とても長い長回しでお互いを
なじるシーンがあり。ここもなかなか良かったのですが。カメラの動きがどこかぎこちなく、あまり良くなかったのは残念でした。

エンドクレジットで、個人的に今注目している川口浩史の名前を、助監督に発見。
果たして、どこかで本人が演出した部分があったのか?がとても気になる。

主演の井上芳雄は舞台では有名らしい。不勉強の至りであまり良く知りませんでしたが、今後は「どんどん忙しくなると思い…」(笑)

2010年8月11日 ヒューマントラストシネマ有楽町/シアター2