櫻イミト

あの胸にもういちどの櫻イミトのレビュー・感想・評価

あの胸にもういちど(1968年製作の映画)
3.5
後のファッション&サブカルチャーに多大な影響を与えた伊・仏合作のニューシネマ。主演は全盛期のマリアンヌ・フェイスフル。原作はエロティシズム小説の大家アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグの代表作「La Motocyclette:オートバイ」(1963)。監督は「赤い靴」(1948)「アフリカの女王」(1951)などのオスカー受賞カメラマン、ジャック・カーディフ。

フランスの田舎町に住む新妻のレベッカ(マリアンヌ・フェイスフル)は大型バイクに乗り、ドイツ・ハイデルベルクに住む哲学教授ダニエル(アラン・ドロン)のもとへ不倫密会に向かう。道中、彼女は自分自身の愛と性について思いを巡らす。。。

オシャレな衣装とサイケな映像が続出し渋谷系サブカル人が夢中になったのも納得の一本だった。アメリカン・ニューシネマのヨーロッパ的展開のようでもあり、女性の破滅型主人公も斬新だったのではないか。ちなみに「イージー・ライダー」は翌1969年の公開である。

何よりも、当時のファッション・アイコンのひとりマリアンヌ・フェイスフル(当時21歳)が、黒レザースーツでハーレーをぶっ飛ばすインパクトにつきる。このフェティッシュ表現の成功により、エロティシズム小説を映画化した意義は充分に果たされていると言える。

女性用の全身一体型黒レザーライダースは本作が発祥で、手掛けたのはSMボンテージファッションの第一人者ジョン・サトクリフ。以後“キャット・スーツ”と呼ばれるようになり、「バットマン」のキャット・ウーマンや、「ルパン三世」の峰不二子などに引用されていく。

一方、シナリオ展開は少々食い足りなさがあり、特にラストの唐突感は惜しい気がした。しかし、その不条理感や刹那的なムードは本作には合っているのかもしれない。

自由の象徴となるバイクだが、自制できなければ直ちに死に誘われる。本作においてはセックスの比喩として用いられていた(同時代的にはドラッグも然り)。エロティシズムの基本は危険を厭わない性的快楽の追及であり、本作ではその一端を感覚的に捉えることが出来た。

ファッションやサブカルが好きであればぜひ観ておくことを勧めたいエポック・メイキングな重要作。

※当時マリアンヌ・フェイスフルはミック・ジャガーと恋人関係だった。一方でコカイン中毒だったことも知られていて、本作でも退廃的なオーラを漂わせている。

※本作はアメリカ映画協会(MPAA) からX評価(16歳未満入場不可)を受けた初めての映画

※邦題はセンスが良くないと思う。英題「THE GIRL ON A MOTORCYCLE」、英改題「Naked Under Leather」の方が良かった。
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