カラン

運命を分けたザイルのカランのレビュー・感想・評価

運命を分けたザイル(2003年製作の映画)
5.0
原題は「虚無に触れる」だから、フランスのアーティスト、イブクラインのLeap into the void「虚無への跳躍」というフォトのタイトルに似ていて、邦題よりも格好がいい。

この映画の言う虚無とは、アンデスのクレバスの深みだろうし、アプザイレンをしていたザイルの切断であろうし、とにかく死の虚無なのだろうが、驚くのは、クレバスの深み=パートナーからの切断=死、この等式の次は、過酷な超自我の出現なのだ。

ジョー、つまりこの作品の作者は、死の淵で超自我による過酷な指令、「進め、進め、進め」を聞き取り、這いつくばって進み続ける。生存本能というには、あまりに過酷な指令を受ける。

フロイトは超自我の正体は死の欲動だと言っていたが、たぶんこの作品の「虚無」とは、死の欲動なのだろう。死の欲動が強力であまりに圧倒的で、それに身を任せる他に何もできなかったジョーは、奇跡に出会うことになった。

人を駆り立てる強烈で圧倒的な力としての死の欲動をこんなに明白に捉えている映画を他に知らない。
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