SANKOU

十二人の怒れる男のSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

十二人の怒れる男(1957年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ニューヨークのスラム街の自宅で、父親を殺したとして一人の不良少年が有罪判決を言い渡された。
もし刑が確定すれば第一級殺人として少年には死刑が言い渡される。
判決の行方は12人の陪審員たちに託された。
少年にとって圧倒的に不利な状況であり、刑の確定は時間の問題と思われたが、一人の陪審員が無罪を主張したために事態は思わぬ方向へ動き出す。
無罪を主張する陪審員8番にも確信があるわけではない。
しかし彼はあまりにも証人の証言が明確すぎることに疑問を感じていた。
そしてその他には状況証拠しかないことも。
彼は疑わしきは罰せずの精神で少年の無罪を主張する。
議論は平行線で行き詰まるかと思われたが、一人、また一人と無罪を主張する者が増えていき、事件は思わぬ真実を浮かび上がらせる。
法廷の一室のみで繰り広げられる会話劇だが、観る者の想像力を刺激する一級のサスペンスである。
物語が進むにつれて証人の証言が実は不確かなことが分かってくる。
もしかすると証言をした老人は、ただ注目を浴びたかっただけかもしれない。
もしかすると少年が殺す現場を目撃したと証言する女性にも見栄を張る癖があったのかもしれない。
ただそれらもすべて推測でしかなく、真実は法定では一切分からない。
おそらく事実がどうであるかはこの映画の描く目的ではない。
この映画が伝えるのは偏見によって物事を見てしまう人間の怖さだ。
人の命はどんな生まれだろうと、等しく重いものだ。
スラム街で育った不良少年だから人を殺しても当然だろう。
この映画の名シーンのひとつは、あくまでこのように主張し続ける陪審員10番に対して、一人、また一人と陪審員たちが背を向けるところだ。
そして男は自分の意見が無視されていく様に呆然となり、最後には無罪に同調する。
そして印象的だったのが最後まで有罪を主張する陪審員3番の姿だ。
10番の時とは反対に皆が無言で彼を見つめ続ける。
彼もまた個人的な偏見によって事件を見ていたことが分かる。
実の息子と疎遠な関係になってしまったことの腹いせとして、彼は何としても父親殺しの罪を少年に着せたかったのだ。
しかしついに彼も自分の意見の無理矢理さに気づき、観念して無罪に同調する。
個人的にはまっさきに8番の意見に同調した9番の老人の洞察力の鋭さが印象に残った。
観ているこちら側にも熱気が伝わってくるような凄みのある作品で、やはり何度観ても画面に引き込まれる。
別れ際に8番と9番がお互いに名乗り合うシーンも印象的だった。
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