めしいらず

バルタザールどこへ行くのめしいらずのレビュー・感想・評価

バルタザールどこへ行く(1964年製作の映画)
4.8
愚鈍、従順、純真、実直。様々な人の手を渡って行く主人公のロバ、バルタザールの遍歴。その先々で酷使され痛めつけられている彼の無垢な瞳に人々はどんな風に映っていただろうか。どこでも重荷を運ばされ、打たれ、雨を雪を耐え忍ぶ風情はまるで受難者のようである。概ね酷い目に遭わされているけれど、どの人に対してもバルタザールはたた従順であり、そのどこか哀しそうな目に恨みがましさはない。目の前を通り過ぎる薄く濃く穢れた人々。自尊心で苦難の人生を呼び込む元教師。不良少年と関わり身包み剥がされる彼の娘。飲酒癖で折角の僥倖をふいにする元犯罪者。関わる人々を悉く傷つけて痛痒を感じない不良少年たち。彼らに赦しを与えその罪を肩代わりするかのようにバルタザールは苦難続きの生涯を終えるのだ。その死はまるで殉教者のようだった。どんな人もロバのようには苦難に耐えられない。ブレッソン映画の中でも特に素晴らしい一編。対象に感情移入しない作風はいつも通りだけれど、見ている側は揺さぶられてしまう。シューベルトの美しい20番ソナタだけがバルタザールの眼差しと同じに人生の哀しみへの淡々とした所感を響かせるようだった。
再鑑賞。
めしいらず

めしいらず