さわら

鬼畜のさわらのレビュー・感想・評価

鬼畜(1978年製作の映画)
4.0
初めてこの映画を見たとき、正妻役の岩下志麻が怖いというイメージしかなかったが、今回改めて劇場で見直してみると、彼女もまた“被害者”であったことに気づいた(彼女は子どもが出来ない体である)。そして、優柔不断で情けない父・宗吉(緒形拳)だって、実は幼少期に悲惨な過去を持っていて、彼自身も“被害者”である。そうか、これは弱き人間のドラマなんだ!ちょっとしたことで人間って、人に優しくもなれるし、非情なこともしてしまう。松本清張作品って、物事を「勝ち組」「負け組」で単純に区別せず、陳腐な勧善懲悪なストーリーでないところがいいと思う。オセロの黒白のように2つは別物なんかじゃなく、常に1つなんだ。そういう意味で今作における、「責任を持てずに子どもを作るな」っていう宗吉批判は見当違いであるように思う。それにしても、人を殺すとき、殺した方にはその直後一瞬の“静けさ”があり、それが今作にも描かれていて印象的だった(特に崖のシーンの緒形の背中!)。タイトルの恐ろしさ・ポスターの不気味さにも関わらず、人間がとても愛しくなる映画である。