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櫂のSのレビュー・感想・評価

(1985年製作の映画)
4.0
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高知の女衒である岩伍と、その稼業をよしとしない妻の喜和。興行師としても名を上げ栄華を極めていくなかで、息子を亡くし、岩伍は女義太夫の巴吉との間に子を作り、夫婦の溝は深まっていく――。
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義侠心が強く見栄っ張りな岩伍を、女として妻として母として支え続ける喜和。男の庇護の許でしか女が生きられない時代でありながら、彼女は一人の女として毅然とした態度で振る舞っていた。
そんな喜和を、同業の女将や芸妓の染勇など、生き方は違えど男に翻弄される女たちが、喜和の窺い知らぬところで岩伍をたしなめ、密かに二人の仲を支えようとする姿に“女の人生の哀しみを共有する絆”が見えて、グッときた。

特に名取裕子演じる染勇が、岩伍を想いながらも喜和に世話になったことを忘れず、「巴吉にハマるな」とか「喜和を大切にしろ」って上手くたしなめるのが素敵だった。彼女が年を重ねる姿もなんか物悲しい。

それでも、岩伍という男には抗えず、物語の終盤、喜和は実子のように可愛がっていた不義の子・綾子を岩伍に奪われてしまう。
そのあたりのシーンで、綾子も喜和も涙を流すのだけど、右目からだけツーっと一筋の涙を流すのがそっくりで、親子の絆は血縁なのか、育んだ時間なのか、考えさせられた。

最後に綾子が「オルガン見たい」というのは、男の許で生きていくしかない諦めからくる“振る舞い”としての無邪気さなのか。
菊が最後に喜和を追いかけもせず説得もせず、別離を受け入れるのは、岩伍という存在が絶対的だからなのか、母に自由になってほしいからなのか。

岩伍が自分の写真を叩き割るのもよかった、愛し合っているのに、分かり合えないし思いやれない。それが彼の愛し方だから。男らしさとは、強さとは。「貧乏は人の心まで貧しくさせる、お前たちにひもじい思いはさせない」と言った甲斐性はなんだったのか。そういう役どころが緒形拳に似合ってた。

にしても、この時代から女の悩みはちっとも変っていないのが哀しくなった
・金銭的に男にぶら下がって生きていくしかない女
・男は年を重ねて脂がのって来るのに対して、女の華は若く、出産や所帯じみてくると浮気に走られ
・「あんたはわいに何も求めん、男のために真っ白になれる」と不倫の末に何も求めないことが求められ、その果てに子供が出来たら捨てられる

「女の身体をあっちこっちやって、それで心まで動かせると思ってる?」
本当に。
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