Arata

大人は判ってくれないのArataのレビュー・感想・評価

大人は判ってくれない(1959年製作の映画)
5.0
「だったら、まずはこれを観るべきだ。」

北海道で生まれ育ち、高校卒業後に上京。
当時、多摩の方に部屋を借り、一人暮らしを始めた。
多摩には当時、遠い親戚が住んでおり、そこのお兄さんが映画関係の仕事をされていた。
彼は私に、上京の目的や好きなものなど、幾つかの質問や会話などをした後、私の前途を祝して、数本の映画のVHSを贈ってくれた。
今作は、その中の一本であり、私が上京して初めて鑑た映画である。
ちなみに、その時に「時計じかけのオレンジ」のVHSも頂戴した。


それまで、フランス映画と言うものを観た記憶は無く、また白黒の映画もほんの数本を観たことがあると言う程度だった為、その体験は沢山の驚きがあった。

そんな思い出の一本。

ラストシーン、無言で走って、走って走って、たどり着いた波打ち際。
急に振り返って、静止画でのカメラ目線。

これには本当に驚いた。
言葉は無かったが、何か語りかけられた気になってしまった。
事実、2度目の鑑賞の理由が、「最後振り返って、彼は何て言ってたんだっけ?」だったくらいだ。

そして、この「波」と言うフランス語こそが、vague/ヴァーグと言うのだから面白い。
語源は今作よりも古いらしいので、直接の起源では無いのだろうが、興味深い一致。


それと完全に余談で、今作で主人公が敬愛するのが、フランスの作家バルザック。
それとは別で、バルザックと言う名前のバンドがあり、上京して最初の頃に仲良くなったバンド仲間が大好きと言う事で、コピーバンドでライブ出演したりもした。
先に今作を観ていたので、フランスの作家の名前から取ったものだと思い調べてみると、案の定そうだったと言う事が思い出される。

その2つのバルザックの事を懐かしく思い、鑑賞後にバンドのバルザックについて調べてみると、今も現役だと言う事がわかった。
ライブに行こうとまでは思わなかったが、何だか嬉しい気持ちになった。

その彼とは、今は疎遠になってしまったのだが、一体どうしているのだろうかと、今作ラストの静止画の様な、記憶の中の彼を思い出してみる。


今作を10代の時に観られた事は、私にとって大切な宝物の様に思える。
上京間も無い私に、おすすめしてくれた親戚のお兄さんには、心から感謝している。

それにしても、今作と「時計じかけ〜」を勧められるなんて、、と気恥ずかしく10代の頃を振り返っている。
Arata

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