Ricola

ジャック・ドゥミの少年期のRicolaのネタバレレビュー・内容・結末

ジャック・ドゥミの少年期(1991年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

アニエス・ヴァルダのセンスと愛によって紡がれる映像のコラージュが素晴らしい。

現在のジャック・ドゥミと少年期のジャック・ドゥミを行き来しつつ、ジャック・ドゥミが生み出した素晴らしい作品の数々の名場面も登場する。
ドゥミのファンならば、興奮間違いなしであろう。無論わたしも大興奮だった!

彼はどういった少年だったのか、どういった環境で育ったのか、そして彼の映画愛はどのようにして生まれたのかを、この作品から知ることができる。
そしてさまざまな映像を組み合わせることで、伝記的作品だけでなく、ドキュメンタリーであり劇映画であり、究極には妻アニエス・ヴァルダから夫ジャック・ドゥミへの最高のラブレターと言えよう。

さて、この作品は仕掛けのような楽しい工夫がいっぱいである。
特に面白いのが、カラー映像と白黒映像の使い分けである。
現在をカラーで映すのはもちろんだが、過去の思い出もカラー映像で彩られることもある。

例えば、彼の観たお芝居、とりわけ人形劇、父のいとことの出会いや、歌手の歌声が響くレストランでの思い出など…。美しく、特に楽しかったであろう思い出は鮮明にカラーで映し出される。

同じ過去でも、他の日常などはモノクロのままである。

また注目なのが、ドゥミの作品にインスピレーションを与えたのであろう出来事と、彼の実際の作品の場面の楽しい融合である。
父のガレージに貼られている指差しのイラストで、彼が後に作った作品に移り変わる。
ガレージからシェルブールの雨傘、賭事が好きだという父のいとこの話から天使の入り江、母の髪を切る仕事からモンパリ、お菓子づくりをしながら歌う母からロバと王女…。
そうかそこからヒントを受けていたのか、と思うと、よりドゥミの作品への敬愛の念が増すし、ドゥミ自身のことを愛おしく思う。

ディズニー映画の白雪姫を観て、大興奮のドゥミ少年。
彼の作品づくりに影響をかなり与えたものなのかと思うとかなり嬉しい。

しかし、こういった美しい思い出ばかりでなく、戦争がやってきて彼の人生に影を落とすことになる。
そこに若干の真面目さが空気をピリつかせるが、この悲しい現実を受け止めた上で、優しく楽しいドゥミの世界が生まれたのであろう。

「暴力はいらない」
そのドゥミの言葉に、深い哀しみと真剣さをひしひしと感じる。

また面白いのが、現在への「ワープ」の仕方である。
過去のドゥミ少年から、急に現在のドゥミの毛だらけの肌やシワが刻み込まれた頬を、じっくりと静かに観察するように映すのだ。
そこで一気にタイムスリップする感覚に陥る。そして、ヴァルダのドゥミへの愛情を感じざるをえない。

そして最後に、印象的だったエピソードは、ドゥミが自作のアニメを撮影するときに、カメラをローラースケートの上に乗せて撮影していたことである。
シェルブールの雨傘での主演の恋人二人が抱き合って歌う姿を映したときに、台車のようなもので撮影されたそうだが、そこに応用されたのかなと思うとなんとも感慨深い。

フランスを代表する偉大なジャック・ドゥミ監督も、一般的な少年であった。
しかし自分の好きなことをとことん突き詰め、夢を追い続け努力も怠らなかった。

そんな彼の経験や思い出が作品に落とし込まれていると思うと、これからまた彼の作品を観るときにさらに楽しめそうで、ワクワクする。

多幸感で胸いっぱいになり、観終わることができた。
Ricola

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