垂直落下式サミング

新・女囚さそり 特殊房X(エックス)の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.6
三代目の夏樹陽子は黒眼鏡がとても似合う。
二人の看守に挟まれた手錠姿の女の顔にカメラが寄ると、まさにこの女が「さそり」なのだと説得されてしまうような、芯の強さが感じられる風貌だ。
今回のさそりはやさぐれグラサン女子か!と思って期待してみていたのに、すぐとってしまうのが残念。だが、後半の脱獄シーンで、鎖で繋がれた地井武男ととも、水に浸かり荒れ地を転げ落ち山越えをする体当たり演技には拍手喝采。このアクションを演じるにあたってメガネは邪魔だったのかもしれない。
この後半の大見せ場での、徹底した娯楽アクションへの舵切りは概ね成功しているが、刑務所内での仕打ちに耐える前半部は、甘いマスクの美人女優が強がる様子をみていると心配になってしまう。
沈黙していながら常に怨念を放ち続けるような、刑務所という場所そのものに溜まった澱みを一手に引き受けてゆくような、そんな強さは感じることができず、場違いのお嬢さんがいるミスマッチさだけが際立ってしまっていた。
「さそり」シリーズは、どうにも梶芽衣子のイメージにとらわれすぎているようで、多岐川裕美版のさそりもそうだったが、初代の出で立ちを意識しすぎて、その演者の個性を引き出せていない。
本作も同じで、お馴染みの服装でドスをきかせようとしても、撫で肩にモデル風美人の顔立ちでは、どんなに凄んでも可愛らしく写るだけだ。
私は「さそり」という映画を女の負の集合体だと捉えている故に、何人もの女優がその時々で違った「さそり」を演じていくべきだと思っている。オリジナルを再現するよりも、今、演じている人の魅力の部分を最大化してほしい。