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ミッドナイトクロスのmagic227のネタバレレビュー・内容・結末

ミッドナイトクロス(1981年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

最初に断言しますが、この一本が僕にとってデ・パルマの最高傑作です!! 「ファントム・オブ・パラダイス」に涙し、「キャリー」の切なさに震え「殺しのドレス」に酔い痴れて、「アンタッチャブル」で最高にクールな男たちを見せられても、やっばりベストは変わりません。 遠景と近景の両方に焦点を合わせる独特の画面構成や、得意のスプリット・スクリーンなど、デ・パルマならではのカメラワークが縦横無尽に冴え渡り、音から事件の真相に近づいていくスリルとサスペンスも満点。偶然、殺人事件の銃声を録音してしまう主人公の音響マン、ジャック役のジョン・トラボルタは一世一代の名演技を披露し、ジョン・リスゴーの殺し屋は狂気を漂わせる。音楽のピノ・ドナジオは一度聴いたら忘れられないスコアを提供し、その全てがデ・パルマのタクトで絡み合い、混ざり合い、緊迫のストーリーを織り上げていく様は、まさしく「ヒッチコックの後継者」の面目躍如! はい、実は一番大事な点に、まだ触れていません。それはもちろんデ・パルマ映画のちょっぴり蓮っ葉なミューズ、ナンシー・アレンが演じたこの映画のヒロイン、サリーのことです。この頃デ・パルマとナンシー・アレンは結婚したばかり。惚れた女の最も美しい表情を切り取ろうというデ・パルマの情熱が乗り移ったか、名カメラマン、ヴィルモス・ジグモンドはサリーを映画史上に残る“可愛い女”としてフィルムに焼き付けました。ちょっとおつむが軽くて蓮っ葉だけど、好きな男には一途で頼まれると断れない。自分では“いい女”だと思っているけど、今まで何度も悪い男に引っかかって悲しい思いをしてきた、それなのにまた別の男を好きになってしまうような、そんな“可愛い女” 絶世の美女でもお嬢様でもないけれど、これって男にとってはやっばりある種の理想の女性像だと思います。 ジャックとサリーの恋とも呼べないような恋は、フィラデルフィアの花火の中で美しくも悲劇的なクライマックスを迎えます。この場面のカメラワーク、スローモーションは映画の神様が降りてきたとしか思えない見事さなのですが、実は問題のシーンはその後にやって来ます。事件後にジャックが行うある行為をどう捉えるかで、作品の評価は天と地ほども変わってしまうのです。僕はジャックにできる精一杯の愛情表現であり、自分を生涯責め続けるための贖罪的行為と理解しましたが、こればかりは観る人の感性次第、劇場公開時アメリカでは悪趣味だとして随分叩かれたのも事実です。 最後に蛇足的な事を書くと、本作の原題「BLOW OUT」はミケランジェロ・アントニオーニの問題作「欲望 BLOW-UP」から来ています。この映画はあるカメラマンが自分で撮った写真の中に殺人場面が偶然写っている事に気付くという作品で、デ・パルマは写真を録音テープに置き換えて本作のストーリーを構成しています。またヒッチコックの「裏窓」との相似も多くの方が指摘する所です。デ・パルマは先人の名作にオマージュを捧げつつ、独自のストーリーと映像表現でデ・パルマならではの傑作を生み出したのです。
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