ねこのみかた

トランスアメリカのねこのみかたのネタバレレビュー・内容・結末

トランスアメリカ(2005年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

とても爽やかないい映画だった。

ブリーとしては、男だった時のたった一度の過ちで出来てしまった子どもなんか知るかよ!って気持ちだったのはすごく理解できる。
しかもいよいよ本物の女性になれるという、手術直前のこのタイミングで。

だけど実際トビーに会ってみると、意外と根はいい子で、しかも義理の父親には性的虐待を受けていたという事実や、元恋人だった母親は自殺していたという事実を知ってしまい、だんだんと放っておけない気持ちになっていったんだろうな。

最初はぎくしゃくしていた二人が、旅を続ける間に打ち解けてくる感じがすごくよかった。

そして、ブリーが実は男だったと知ったときのトビーの怒り。
気持ち悪さ、バツの悪さ、戸惑い、いろんな感情が混ざり合っていたんだろうけど、一番腹が立ったのは事実を隠していたってことなんだろうな。
たぶん裏切られた気分になったんだと思う。

だけどトビーは、ブリーの優しさや人間としての魅力にどんどん引き込まれて行った。
それを愛だと勘違いしたのは、多分今まで人を愛したり人から愛されたりした経験が希薄だったからだと思う。
もしかしたらブリーに母親を重ねていたのかもしれない。
それを愛だと勘違いしたのかも…。

実の息子に迫られたんじゃぁ、ブリーとしてはもう真実を告白するしかない。

トビーは傷ついただろうなぁ。
愛した人が実は父親だった。

…なんともカオスな展開。

そして念願かなって本物の女性となったブリー。
でもトビーを失った悲しみが大きくて、あれほど楽しみにしていた手術の成功にも喜ぶことができなかった。
自分の夢や願い以上にトビーの存在が大きかったということか…。

そしてあのラスト。

女性として生き生きと働くブリーには、本当に安堵した。
自分に自信を持って生きることができるようになったんだろう。
そしてトビーも戻ってきた。
ブリーはもう迷うことなく、自分の信じた人生を歩んで行くんだろうな。

途中で出会った先住民の男性、そしてブリーの家族たち、この人たちがまたとてもいいエッセンスになっていた。

特にブリーの母親。
息子を失った(女になってしまったのだから)悲しみや、トビーが孫だと知ったときの喜びや、そのいちいちが痛いくらい伝わってきて、それをとてもコミカルに表現していて、すごく面白かった。

ここ最近、性的マイノリティな人たちが主人公の映画を立て続けに観た気がするけど、アメリカってこういうテーマに本当に真摯に向き合うよなぁ。
こういうテーマは、あえて向き合わなければ知らないまま終われることもできるんだけど、それじゃダメだと思う。
「こういう世界もちゃんと見ときな」っていう、アメリカの姿勢、好きだなぁ。