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南極料理人のtakのレビュー・感想・評価

南極料理人(2009年製作の映画)
3.8
 南極観測隊の料理担当としてドームふじ基地に赴任した原作者のエッセイを映画化した話題作。同じ南極の基地とはいえ、ふじ基地は昭和基地と違い標高も高く生物もいないウィルスさえも生育しない極寒の地。そんな極限状況で働く8人の男たちの日常をユーモラスに描いている。緊張と極限の状態の中で、食べることを通じて気持ちを和らげようとする主人公の優しさが心に染みる。南極を舞台にした映画というと、どうしても極限状態をテーマにとったサスペンスだのホラーだのが多くなる。「南極料理人」の登場人物たちも、もちろん精神的に参ってしまうこともあるだろう。だがここでは”究極の単身赴任”である南極勤務を、ある意味楽しんでいる様子もうかがわれるし、それぞれの生き方がきちんと描かれているところが素晴らしい。

 劇伴もほとんどないし、淡々と日々が描かれる映画なんだけど、決して飽きることがない。それは南極での生活の実態を知ることができることが面白いからだ。運動不足になりそうな日常。テレビの体操番組の録画を見ながら体を動かす。レオタード姿の女性たちに「オオーッ」と歓声があがるのも男だけの世界だから。水の使い方の厳しさ、プライバシーも何もないトイレ、高額な電話料金・・・。そこで何の仕事をしているのかを描くのではなく、そこでどう生きているのかが面白い。

 ”究極の単身赴任”の中、「お父さんがいなくなってから毎日が楽しくて仕方ありません」と言われる主人公。恋人にふられて落ち込んで、KDDの交換手に恋をする隊員。たまに電話をしても話したがらないと言っていた妻が帰国した時にすがりついて泣いてた姿。念願の帰国を果たした場面は、大した台詞もないのにとても心に染みた。

 ラーメンを食べ尽くしてしまった後、きたろうが「ボクの体はラーメンでできてるんだよ」と泣きそうになるエピソード。主人公はかんすいの代わりになるものを考えてラーメンをつくる。嬉しそうにラーメンを食べるきたろうの姿に、「食べる」ことの大切さを感じる。そしてカラッと揚がらない唐揚げを食べて、奥さんのことを思い出して涙する場面も、こっちまでホロッとくる名場面。

 水を確保するだけでも大変な場所だし、本当に雪と氷しかない。だから「毎日をどう楽しんで生きられるか」が大切なこと。それは僕らが日常生活を送る上でも大事なことなんだよな・・・と考えさせられた。僕らの日々だって、実は同じ事の繰り返しのように感じられてうんざりすることもしばしば。それでもその中に楽しさを見いだせるのかが”生きる工夫”だと思うのだ。全体的にゆるーい雰囲気の映画なれど、不思議と生きる活力を感じさせてくれる。

 雪上車の中に貼られた宮崎美子の懐かしいピンナップが、何故か強く印象に残ってしまいました(汗)。
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