デニロ

飼育のデニロのレビュー・感想・評価

飼育(1961年製作の映画)
3.5
1961年製作公開。脚色田村孟 。大島渚監督作品。冒頭配給大宝映画と出て混乱期だなあと感慨深い。『狂熱の果て』という脳漿作品を観たのは昨年だったか。

大江健三郎の原作。彼の作品は、10代後半に義務で読んでみようかと新潮文庫を買った。始めは何だったろう。難しいんだろうなと恐るおそる手にしたのだが、思いの外面白く初期の短編中編は全て読んでしまった。が、「個人的な体験」からの長編は読みづらくなった。「同時代ゲーム」を読んで以降手にすることもなくなった。理由は作品だけでもなく、文化人然としてしまったことにがっかりしたのだと思う。権威になってしまったのだ。

第二次世界大戦末期、山村に米軍機が墜落しその乗務員を捕獲する。面倒ながらも生かして憲兵隊に引き渡すためだ。彼を捕獲して後、村にとって都合の悪い出来事は全て彼のせいにしてしまう。そんなある日、不可抗力で死んでしまった子供も彼のせいだと、もはや殺すしかない。何もかもが面倒臭くなった村長は鉈でブチ殺してしまう。そこに終戦の知らせ。まずい、と。米軍に知れたらとんでもないことになる。今度は何事もなかったかのようにふるまおうと村中で意思を固める。今に至っても続く事なかれ主義思想。不味いことは漂白してしまう。糊塗して糊塗して覆い隠す。子供が死ぬと、適切な処置をしていたと言い募る行政があるが、そんな感じ。どこにでもある風景。日本の原風景。最近実録が発刊された彼の人にも葛藤はあったんだろうが、何事もなかったかのように生き永らえた。

端正に作られていて松竹出身だな、と思わせる。作りが時代に阿っていったのは『白昼の通り魔』からだろうか。

小山明子は本作がいちばん色っぽい。

ラピュタ阿佐ヶ谷 戦後独立プロ映画のあゆみ-力強く PARTII にて
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