Siesta

アバウト・シュミットのSiestaのネタバレレビュー・内容・結末

アバウト・シュミット(2002年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

偏屈なおじさんモノという割と定番の作品なんだけど、脚本、編集、音楽、演出といった様々な要素の妙によって、まさに人生におけるユーモアとペーソスの傑作になっていると思う 日本でいうと山田洋次監督を想起するようなバランス 題材的にはイーストウッドとも重なる ただ、山田洋次とイーストウッドは少し自伝的要素も色濃くて、個人的には“酔ってる感”も感じるところもあったのだけど、今作はそれがあまりない ただ、1作目の男はつらいよは結婚式つながりで少し想起した あと、結構、小津安二郎の家族観にも近いものを感じた 「秋刀魚の味」のラストとか 家族とその折り合いに対するリアルな視座というか、それに対しても断罪的にならない感じとか 案外、チャップリンっぽさはあんまり感じなかった チャップリンは割と分かりやすい“良い人”だからかな でも、意外とシュミットは偏屈なんだけど、それよりもイーストウッドほどあんまり頑固というわけではなくて、最低限の社交性はあって、絶妙に“小さい男”っていう感じで、個人的にはめちゃくちゃリアルなバランスに感じた それでもって、もちろん嫌だなぁとは思うけど、まさに編集、音楽、ジャックニコルソンの演技によって、良い意味でみっともなくて笑えるし、哀愁もあって ただ、彼を安易に“救う”ような描写や演出はなく そのバランスがめちゃくちゃ良い
冒頭、時計の針が定時を指すまで待つあの感じでストーンと彼の置かれているところを察する 定年最後の日、皆に祝福されるパーティー、その表面性、それを皮肉り彼を“豊かな人”と称賛するそれ自体の本質的な皮肉 彼も大社長とかじゃなくて、課長代理みたいな管理職止まりくらいの感じがめちゃくちゃ絶妙 奥さんも嫌な人じゃなくて、朝ごはん一緒に食べてくれたり、励ましてくれたり でも、気に食わないんだよな 色々と奥底にある部分で 座り方、喋り方、存在そのものに 仕事もやることなくてアイデンティティ失っちゃう、ってなったところで助けてやるよモードで行ったら、あんまり既に必要とされていなくて ここはまあ若い頃からマジで自覚した方が良いと思う どれだけ長くいた場所でも、たとえ愛された場所でも、マジで居場所はなくなるよってこと 惜しまれる、寂しいってのも基本的には最初だけ それが社会の厳しさ その辺も小津の生きるとかとも重なるんよな ずっと勤め上げる主人公ってのが むしろ、不在をなんとかしようと一生懸命やってるときって、その人なりの方法論を模索してたり、少し経ったらそれが出来つつあったりするから、そこで助けてやるよモードで来られると、ゼロに戻される感、ややもする邪魔された感あるんよな むしろ、失敗させてくれというか、そこから学ばせてくれというか でも、それを強がりで言い訳して、奥さんには嘘をつく 寄付をする遠くの地の子どもとの手紙にも不満をぶちまけつつ、嘘も交えて強がる そして、突然の妻の死 寄り道したらダメよ、って言われたのに、アイス買って食べてから帰るというしょうもなさ、家に帰ると、掃除機の音が続いている、まだ掃除してるのかよ、というさっきの不満のオンパレードがフリとして効きつつ、まさかの倒れて亡くなっているという もし、アイスなんか食べてなければ でも、それらを匂わせたりしないで、ただ見せていただけというところも良い さらに、娘の結婚 夫になる人物は男前でもないとか、あーだこーだ不満ばっかりで結婚を止めようとする しかも、お母さんとよく話し合ったんだが、とか言って マジでちゃんと最低なのよ ちょっと性格の悪いブラックさは吉田恵輔みもある 投資の話とかぶっ込んだりしてバイアスかけようとしたり
そこからの1人で生活できないモード 家の中の片付けられていないリアルさ、爆買いの不慣れさ やっと妻への感謝と後悔が芽生えて服の匂いを嗅いで恋しく思って、という良い感じのところで浮気のラブレター見つけて表情曇って、全捨てというところはめちゃくちゃ笑った 良い話にしないで壊すこのバランスが絶妙 音楽の使い方もまあ絶妙 他にも、旅をする中で年下の夫婦に出会って優しくしてもらって、そしたら、もっと早く出会えたら、って奥さんにキスしちゃうとか あの、上着もらっていいですか?の情けなさは笑う あそこで、あ、年下のメンター的なこと?それで改心する的な展開?キーパーソン?って思ったら綺麗に裏切られる
あと、勝手に娘のところに押しかけようとして止められる時もそうだけど、何回も繰り返される「色々と考えたんだけど」 何も考えてないのに、自分の考えを押し付けるために正当化させるために使うずるい言葉よな
星空に涙を流して改心かと思いきや、やっぱり結婚止めようとして娘に呆れられるし そこからのインパクト大の花婿の性欲激強お母さん 良い人なんだけど、裸で風呂場入ってくるのは笑う あと、ウォーターベッドで首痛めたり、終始本当に情けねぇのよ あと、食卓のリアルな殺伐さ 喧嘩してるわけではないけど、空気読めない奴らばかりというか しかも、さらにぶち壊そうとそこにシュミットは投資の話をぶち込むし そして、結婚式 ありがとうと感謝を告げる でも、これも本心というより体裁を繕った感じで それはそれでささやかな成長ではあるんだけど、本質的にはまだ成長できてない感じもまたリアルで良い ラストで自分は誰の人生にも寄与していないと落ち込む そこでの手紙、絵 寄与できていた、というささやかな救い これが娘、母でないというのが良い 別に2人から許されたわけではないからね この成長してない感、それでも生きていく希望というか、この感じがベストな着地だと思う 最後のあれ、実は詐欺でした的なブラックなオチも想像したけれど、今作はラストでそうしないバランスの方が良かったと思う
ただ、やっぱり、道、永い言い訳とか、自分のみっともなさ自覚していく系映画は好きなんだよなぁ 今作に関してはマジで自分というよりそう遠くない未来の自分の父親に見える こういう男の人、めちゃくちゃいると思う もう注意してもらえる年でもなくて、ずっと同じところで働いているから能力に関係なく何となく立場あって、学のある若者を目の敵にして、無趣味で、自分の考えだけが正しくて、「色々考えて」と言うくせに最初から結論決まってて、身の回りの人が本当にしてほしいことをしないくせに“しょうがねぇなぁ”っていうスタンスで必要にされたくて周りに自分から独善的に絡むも相手にされなくて、相手にされたい“かまってちゃん”なのに“相手にしてやってる感”とか、それが“普通”みたいなスタンスで押し付けるの、マジで嫌だわぁって思うもん そして、それの本質は作中も言及されたけれど、怒り、恐れ、孤独 今作はマジで人生後半に差し掛かった中高年男性は見た方が良い
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