渡辺静

12人の優しい日本人の渡辺静のネタバレレビュー・内容・結末

12人の優しい日本人(1991年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

男性がトラックに轢かれ死亡、
被害男性を突き飛ばした容疑で女性が罪に問われた裁判で、陪審員となった12人。
一度は全員無罪で一致するが、1人だけそれを撤回した男がいて……

***

二度目の鑑賞。
初めて観た時は面白かった印象があったけど、なんか今回はあんまり面白くなかったです。

理由を考えたら、今回は元ネタの『十二人の怒れる男 評決の行方』と続けて観たせいかもしれない。
たぶん本作のジャンルはコメディなのに、「法廷サスペンス」を観るコンディションになっていたせいで、キャラクターたちの言動にいちいち引っかかってしまったのが大きいのかも。
とにかく、ほとんどの人間が真剣に議論しない。陪審員としての責務をまっとうしようとしない。観ててめちゃめちゃイライラしました。三谷幸喜らしい「おもしろディテール」もそれに拍車をかけている。
演出意図としては、「日本人の国民性」みたいなものがあるんだと思うし、それがテーマなんだとも思うが。

一方、プロットはかなりトリッキーかつ相当たくみに計算されていて、原作を知っている人ほど驚く仕掛けがある。以下に解説。

①全員無罪で一致
*原作を知っている人は虚をつかれる。
②メガネくんが無罪を撤回し有罪を主張
③メガネくんの主張をきっかけに有罪派が増えていく
*ここまでは、有罪無罪は逆だが構造は原作と同じ。
原作を知っている観客は「今回は逆に有罪の真実を明らかにする話なのね」と思って観るが…

④有罪が多数派になる
⑤全員一致で有罪になるかと思いきや、1人無罪を譲らないオッサンがいる
⑥オッサンの主張をきっかけに、事件の真実がはっきりしていき、無罪派が増えていく
⑦最初に有罪を主張したメガネくんがひとり有罪派で残る。
⑧メガネくんが意固地な思いを捨て、全員一致で無罪になる

*④から⑤が特筆すべきところで、
無罪を譲らない人物のいじらしさ、有罪を主張する人物の傲慢さを意図した演出が入り、
「いいもの」と「わるもの」の逆転現象が起きる。
そして驚くべきことに、ここから「有罪濃厚の中、無罪を明らかにしていく」という、原作と同じ構造に戻る!
つまり原作で言うと、最初“陪審員8番”だったメガネくんが、最後には“陪審員3番”になっているという仕掛け。これは驚いた。

メガネくんの絶妙な言動と演じる役者の上手さないと、この仕掛けは無理がでてくるので、メガネくんのキャラクター造形ががすごいと思った。
たしかに最初から、陪審員8番役にしては押し付けがましかった。

この最高の仕掛けをもう少し上手く消化できるキャラ回しがあったのではないか……というところが残念。
渡辺静

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