8Niagara8

トウキョウソナタの8Niagara8のレビュー・感想・評価

トウキョウソナタ(2008年製作の映画)
4.3
リーマンショック前夜の東京、閉塞感が痛いほど伝わる黒沢清らしい冷たくメッセージ性の強い映像。
家族それぞれの価値観の喪失、崩壊。
そもそも夫の災難以上に黒須の悲劇は淡々と描かれるだけに一層暗澹たる残酷さを感じさせる。
失業した夫だが、自分に何が出来るか答えられず、会社の歯車に過ぎなかったことが伺える。何者でもなかったのか、家長として家で威厳ある父でなければならないという根拠のない自己認識がより一層彼を苦しめる。それでもラストシーン、社会のため家族のため働いた男のカタルシスの涙は胸にくるものがある。
妻も役割としての自分の価値を定めるに過ぎず、場当たり的。自己存在が宙吊りになっていることさえ気づかず、束の間の逃避行で非現実により現実を知る。
厭世的な兄には最早日本は見限る程度の国である。しかし、文明社会において楽園や幸せを簡単には甘受できる場所はそうそうなく。
秩序を嫌う弟。しがらみから逃れたいわけだが、ちっぽけな子供には自らの無力さが降りかかる。しかし、子供たちには可能性が広がっている。実際縛られていた弟はその可能性の中で生き始める。

そして彼らの離散と再生。
どの人間も抱える秘密と肉親への愛憎半ばする感情。その普遍性にいささかやるせなさを覚えながらも、救われる気持ちもある。
全てを飲み込んでしまう社会の不条理。
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