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海と毒薬のRedのレビュー・感想・評価

海と毒薬(1986年製作の映画)
4.0
遠藤周作の『海と毒薬』を読了したので映画も観てみた🌊
奥田瑛二も渡辺謙も若い若い!
そして、小説の再現度が高くて、読みながら頭の中で想像していたイメージと近しいものがあって感動した!
台詞だったり細かい描写だったりが原作に忠実で有り難かった。

太平洋戦争末期に九州の大学附属病院で起きた米軍捕虜の生体解剖事件が舞台。
原作や映画ではF市の大学病院とだけあるが、実際に福岡市の九州帝国大学(現九州大学)の医学部の解剖実験室において、アメリカ軍捕虜の生体解剖を行っていたのだからかなりのショッキング的事件が題材になっているのは事実。

みんな死んでいく時代。
病院で死なない者は毎晩空襲で死んでゆく時代。
もう先が短い患者だからといって新方法の実験台に使って良いのか。
絞首刑になると決まっているからといって米軍捕虜に生体解剖を行って良いのか。

“死ぬことが決まっていても、殺す権利は誰にもない。”

死ぬことが決まっていても、だからといって殺していいことにはならない。

キリスト教とは異なり、神なき日本人の”罪の意識“、日本人とはいかなる人間かを一貫として問うている素晴らしい作品だった。
解剖に参加した者は単なる異常者だったのか、何がこの残虐行為を致すまでに至ったのか...。

”あの捕虜を殺したことか。だが、あの捕虜のおかげで何千人の結核患者の治療法がわかるとすれば、あれは殺したんやないぜ。生かしたんや。人間の良心なんて、考えよう一つで、どうにも変るもんやわ。”
(『海と毒薬』P.194)

戦争の最中、権力者が絶対的な力で支配する医療現場。
医学の進歩のためという建前で人間を殺すことへの正当化や無感動、はたまた葛藤や苦悩を、人間の内側を、うまく捉えた作品だったと思う。
戦争という異常環境だけがあの残虐行為を遂行するに至ったのか、現代でも残虐行為とまでは流石に言わないが、自分の内なる感情とは別に周りについ流されてしまうことがあるのではないか。
意気揚々と加担したわけでもなく、嫌々無理矢理加担させられたわけでもなく、なんとなく流れに身を任せてしまった結果、人間の悪の所業にまで行き着いてしまうのがなんとも恐ろしい。日本人特有の集団心理や同調圧力もまた一歩間違えると取り返しのつかない結果を生むのだと理解した。

神なき日本人の揺れる罪の境界線、揺れる良心の境界線が波打際を行ったり来たりする”海“の波そのものであり、その都度抱く人間の合理的勝手な解釈が”毒薬“のように私は感じた。
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