海と毒薬の作品情報・感想・評価・動画配信

「海と毒薬」に投稿された感想・評価

Masato

Masatoの感想・評価

3.8

死ぬことが決まっていても、殺す権利は誰にもない。

熊井啓監督による社会派ドラマ。実際に起きたアメリカ軍捕虜の生体解剖を行った事件を基に遠藤周作が著作。それを映画化。

熊井監督ならではのダークでホラーのようなオドロオドロしさを持ち合わせたドラマ。社会派と謳われているが、遠藤周作が原作ということもあってか社会派よりも人間がその行為を行うことによる心情の変化をまざまざと描き出した人間ドラマに近い印象。
故に、生体解剖が軸となる物語というよりかは、戦争と医療が及ぼした結末ゆえの生体解剖という着眼点になっている。なので、生体解剖というものを主として鑑賞してみると、やや退屈気味に感じられるかもしれない。

死と隣合わせだった太平洋戦争と他者の死を当然にも見てきた病院という2つの狂気の世界によって、人間の尊厳が失われていく過程が描き出される。

一人は志の高い心優しき青年(奥田瑛二)。死というものが当たり前になり、周囲が死に対する尊厳を失っていくことに疑問を持つが、苦悩し考えることが苦しくなった結果、その脆い心は壊れてもぬけの殻のような人間になってしまい盲従してしまう。

もう一人は既に良心を失っている青年(渡辺謙)。死というものに対して何の感情も抱かなくなった自分に疑問を持ち、ひたすらに自身の感情を探っていくが、結局は大義のためと言い訳をしながらただ従っていく。

狂気の世界で働き何が当たり前かも分からなくなり、心が完全に疲弊しきって何も感じず、何も抵抗できなくなった人間たちの恐るべき愚行。遠藤周作は本作品を「神なき日本人の罪意識」とテーマしたそうだが、まさにその通りだった。神という名の道徳の監視の目、ある種の超常的な存在による道徳心が存在しない故に、常識の通用しない狂った環境にいると、歯止めが効かずに狂っていく。

社会的な監視の目しか感じないなら、それは社会が軸となり、社会が敵の人間をどうにでもして良いと思えば出来てしまう。社会というのは絶えず良い方にも悪い方にも変化していくもので、それでは人間は本当の善を確保できない。だからこそ、普遍的な道徳心を必要としなければならない。それは宗教でも道徳教育でもどんな手段であっても必要。それが失われてしまうと本作品における軍人のようになってしまう。

これは、ナチスが行ったホロコーストでも同様。ハンナ・アーレントが提唱したアイヒマンの愚行から名付けられた「凡庸な悪」。今ある環境に囚われず、思考を停止しないこと。常に考え、常に疑うこと。そうしないと悲惨な出来事に知らずしらずに加担していることになる。

何か人としての大切なものを失ってしまったと一部の人間たちが感じるシーンが最後にある。その時だけ、狂気の世界から逸脱できたように思えたが…。

ここまでのことをして、朝鮮戦争ののちに恩赦になったって…どこまでも酷すぎる話。当時戦意高揚を目的とした食人事件もあったし…人間はここまで恐ろしくなれるものなのか。

凡庸な悪が生まれてしまう環境下は戦争や医療現場だけでなく、あらゆる環境においても本当に良くないが、この社会である限り必然的に生まれてしまうものでもある。だからこそ、自分という自分を持たなければならないと改めて感じる物語だった。ドイツの奥さんヒルダのセリフがすべてを要約してくれている。

日本人は日本人で気付くこともあるけど、それよりもキリスト教圏の人間がみるとより気付けることが多くありそう。


禁忌の領域に人が踏み込むことの悍ましさをまるでホラーのように演出することで圧倒的な「罪悪」を感じさせる残酷な演出がすごかった。実際の人血を使った手術シーンも圧倒的なリアル。いままで幾多の手術シーンを見てきたが、ここまでに鬼気迫るものは無かった。史上最高の手術シーン。
にしの

にしのの感想・評価

4.0
どーでもいいやって気持ちは良く感じるけど、それは地獄への急行列車になるのだ。
王冠

王冠の感想・評価

3.6
海と毒薬
1986年公開の日本映画。遠藤周作の同名小説を映画化。太平洋戦争末期に実際にあった、米軍捕虜への臨床実験(生体実験)「九州大学生体解剖事件」における若き医師の葛藤を描いた作品。

#奥田瑛二 #渡辺謙 #成田三樹夫

若かりし渡辺謙さんが、息子の渡辺大さんにソックリ(大さんが謙さんに似てるのか😀)遺伝情報恐るべし。
名優・成田三樹夫さんが効いてる。ガーゼの発音が耳に残る。
重いテーマなのであえて軽口を叩いておくと、レクター博士によれば、肝臓より胸腺の方が“料理”にはお勧め。胸腺はシビレとも言うから、戦争で、アタマがシビレた将校達にはピッタリ。
昔観た時はグロシーンしか印象に残ってなかったが、良い俳優を揃えていたんだな。
成田三樹夫と田村高廣。そして組織に圧殺される若者。
熊井啓の古巣だった日活映画ではなく、大映の『黒シリーズ』を連想させる。
最高

第二次世界大戦
日本
医師
生体実験

人の命とは?

倫理観、同調圧力、個人的な恨み
日本の独特な文化が詰まっている

医学の進歩のためと、銘打っているが
そこまでの目的は果たしていない

軍との癒着
気持ち悪い部分が出て良い
【ガチ無神論者がガチで選ぶ宗教文学】

「あまたのヒンズー教徒たちが、この大きな流れによって浄められ、より良き再生につながると信じている河。妻も何かによって運ばれていったのか。

「お前」と彼は呼びかけた。
「どこに行ったのだ」

かつて妻が生きていた時、これほど生々しい気持ちで妻を呼んだことはない。妻が死ぬまで彼は多くの男たちと同じように仕事に熱中し、家庭を無視することが多かった。愛情がないわけではない。人生というものはまず仕事であり、懸命に働くことであり、そういう夫を女もまた悦(よろこ)ぶと考えてきた。そして、妻のなかに自分に対する情愛がどれほど潜んでいるか、一度も考えなかった。同時にそんな安心感のなかに彼女への結びつきがどれほど強くひそんでいたかも、自覚していなかった。だが臨終の時、妻が発した譫言(うわごと=「わたくし……必ず……生まれ変わるから、この世界のどこかに。 探して……わたくしを見つけて……約束よ、約束よ」)を耳にしてから、磯辺は人間にとってかけがえのない結びつきが何であったかを知った。

この世は集団ができると、対立が生じ、争いが作られ、相手を貶(おとし)めるための謀略(ぼうりゃく)が生まれる。戦争と戦後の日本の中で生きてきた磯辺はそういう人間や集団を嫌というほど見た。正義という言葉も聞きあきるほど耳にした。そしていつか心の底で、何も信じられぬという漠然とした気分がいつも残った。だから会社のなかで彼は愛想よく誰ともつき合ったが、その一人をも心の底から信じていなかった。それぞれの底にはそれぞれのエゴイズムがあり、そのエゴイズムを糊塗(こと)するために、善意だの正しい方向だのと主張していることを実生活を通して承知していた。彼自身もそれを認めた上で波風のたたぬ人生を送ってきたのだ。

だが、一人ぽっちになった今、磯部は生活と人生とが根本的に違うことがやっとわかってきた。そして、自分には生活のために交わった他人は多かったが、人生のなかで本当にふれあった人間はたった二人、母親と妻しかいなかったことを認めざるを得なかった。

「お前」
と彼は再び河に呼びかけた。
「どこに行った」

河は彼の叫びを受けとめたまま黙々と流れていく。だがその銀色の沈黙には、ある力があった。河は今日まであまたの人間の死を包みながら、それを次の世に運んだように、川原の岩に腰かけた男の人生の声も運んでいった。」

(遠藤周作著『深い河』、第10章大津の場合、講談社、1993年、302頁より)

【神とは草木を優しく撫でる風(プネウマ)のことである】
「神学校のなかでぼくが、一番、批判を受けたのは、ぼくの無意識に潜んでいる、彼等から見て汎神論的な感覚でした。日本人としてぼくは自然の大きな命を軽視することには耐えられません。いくら明晰で論理的でも、このヨーロッパの基督教のなかには生命のなかに序列があります。[...]「それではお前にとって神とは何なのだ」と修道院で三人の先輩に問われて、僕はうっかり答えたことがあります。「神とは、あなた達のように人の外に存在して、仰ぎ見るものではないと思います。人間の中にあって、しかも人間を包み、樹を包み、草花をも包む、あの、大きな命です。」[...]ヨーロッパの考え方、ヨーロッパの神学には馴染めなくなったぼくですが、一人ぽっちの時、そばにぼくの苦しみを知りぬいている玉ねぎが微笑しておられるような気さえします。ちょうどエマオの旅人のそばを玉ねぎが歩かれた聖書の話のように、「さあ、私がついている」と。」(第6章)

【美津子が大津に追いつく最終章】
「「信じられるのは、それぞれの人が、それぞれのつらさを背負って、深い河で祈っているこの光景です。」と、美津子の心の口調はいつのまにか祈りの調子に変(かわ)っている。「そのひとたちを包んで、河が流れていることです。人間の河。人間の深い河の悲しみ。そのなかにわたくしもまじっています。」」(第13章、「彼は醜く威厳もなく」)
DamKeeper

DamKeeperの感想・評価

3.0
『ひかりごけ』もこの監督なんだ。
すごいなあ、全部タブー。
༄࿔༅࿔ 戦争が先か、人間の本性が先か࿔༅༅࿔༄

昭和20
タイトルとパッケージに惹かれて観たら…
ああ恐ろしい。淡々と恐ろしい。
人間は一体どこまで残酷になれるんだろう。
戦争だけが理由なのか?…きっと違う。

昔観たドラマ『JIN-仁-』から最近観た映画『白い巨塔』まで、手術シーンなんて見慣れたもん…と思ってたら大間違いだった。
モノクロでグロ緩和されているのか、
逆にモノクロだから尚一層リアルに見えるのか、もう良く分からない…(´༎ຶ۝༎ຶ)
手術の描写も今まで見たものと全然違ってて興味深いと感じたのは序も序盤だけだった。

手術シーンは皆マスクしてるけど目の演技だけで全員の感情が伝わり過ぎるぐらい伝わってくるの凄い。
臓器がリアル過ぎて目を覆いたくなるが、
もっと目を覆いたくなる惨劇が。
"手術"という呼び名は同じでも、行き着く場所が最初から決まっているとしたら…もうそれは全く違う行為。

日本がこの作品を作った事に意味があるし、
昔起きた都市伝説などでは全く無く、
今現在もこの恐ろしさは地球上で続いている…という事に鳥肌が立つ。
「コメディやったな」というセリフにもあるように、恐ろしさの渦中に居る人間がとても滑稽に描かれているのもまた至極リアル。
悪い人間の口の滑らかさはハンパない…

根岸季衣が味方キャラだととんでもなく頼もしいが、一転敵に回ったキャラだった時の面倒臭さは天下一品。
全体をひんやりと冷やす水のような、
くぐもった音色のピアノが良い。

2022/03/25GYAO無料配信
東裕二

東裕二の感想・評価

3.6
20220325-088
1945年5月、九州

原作:遠藤周作(1957年)
美術:木村威夫

九州大学生体解剖事件
B-29爆撃によるアメリカ人捕虜8名が人体解剖される。
実験期間 : 1945年5月17日から6月2日
最終的に九州大学関係者14人、西部軍関係者11人が逮捕
その後、朝鮮戦争が勃発し、恩赦によって減刑されその多くが釈放された。

勝呂:奥田瑛二…F市の大学病院の研究生
戸田:渡辺謙…勝呂と同じ研究生
橋本教授:田村高廣…勝呂・戸田の「おやじ」。妻はドイツ人女性・ヒルダ。
柴田助教授:成田三樹夫…助かる見込みのない患者である「おばはん」を実験台にしようとする。
浅井助手:西田健…橋本教授に取り入って権力を固めようとしている。看護婦の上田と男女関係がある。
上田看護婦:根岸季衣…看護婦長の大場と共に実験に参加。「聖女」としてふるまうヒルダに対して反発心を持っている。
大場看護婦長:岸田今日子
ハットリ調査官:岡田眞澄

「死ぬことが決まっていても、殺す権利は誰にもありません」
「神様が怖くないですか?あなたは神様の罪を信じないのですか?」

オピオン2cc:がん患者など鎮痛剤

1945年5月なのに戦争の緊張感が少ない?

NHKドラマ「しかたなかったと言うてはいかんのです」(2021年)
theocats

theocatsの感想・評価

3.2
余り緊張感のない間延びした展開にこちらの集中も途切れかかっていたが、捕虜米兵生体解剖シーンはまるでこちらも共犯にさせられているような奇妙な心境になり、固唾を飲んで見入ってしまった。
あれは正しく許されざる医療殺人。あれをやっちゃ人間お終いだが、しかし現代でも「動物実験」として医療生体殺戮が行われていることに思いを馳せると、人間の罪深さを改めて再認識せざるを得なくなった。
ずっと以前に知り合いの医大生が動物実験の授業で動物の足を金づちで骨折するよう強制させられたと泣きながら話していたのを思い出した。
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