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『惜春』に投稿された感想・評価

◎笠置ブギでサンドイッチ 上原謙メロドラマ

1952年 102分 モノクロ 新東宝 デジタル上映
フィルムセンター(*)所蔵フィルム
*現国立映画アーカイブ

今回の笠置シヅ子特集を続けて観ていくと、邦画全盛期のプログラムピクチャーってのも、玉石混交どころか、
歌謡オペレッタと志ん生落語をない混ぜにした『銀座カンカン娘』とか、
『落下の解剖学』とか『オッペンハイマー』とか法廷劇ばやりの昨今どころか、はるか70年前の大昔に、裁判所で大スタア総出演のミュージカル仕立てお笑い芸能大会をおっぱじめる『のんき裁判』とか、
ここまで異文化交流、別業種混在を平然とやっていたのか、と驚かされることばかりだ。

本作も珍品度が高いので、ネタバレは気にしないで記述することにしたい。

本作冒頭、バンド演奏を従えての笠置シヅ子の大熱唱で始まる。
スタジオかと思いきや、これが、今をときめく流行歌手衣笠蘭子(笠置)の大豪邸。

田中春男がバンドの指揮者で、妙にオネエっぽい演技をかまして来る。

マネージャーが呼ばれて出て来るが、それが伊藤雄之助。
シネ・ヌーヴォの客席から「わっ」と声があがった。
それだけファンが多いのだろう。私もファンなのだから。
まだ30歳過ぎそこそこの若い雄之助氏、嶋田久助になんか似ている。

小津映画でお馴染み、斎藤達雄がレコード会社の職員、何かの下働きで東野英治郎もいる。

歌う笠置の左右に、斎藤達雄と伊藤雄之助、田中春男に東野英治郎までが一画面に映っているという絵は、ぜいたく過ぎてなかなかお目にかかれないはずだ。

笠置の歌も、パーカッションが賑やかな何やらブギ(と言っておけばまず間違いない)が印象的で、途中から自分で拍子木を打ち鳴らしながら歌うが、そのリズムも冴えているのは流石と言うしかない。

この大歌手の夫が、藤崎(上原謙)。
銀座四丁目にある楽器店(と言っても現在も山野楽器はじめ楽器店が多いところだから特定できない)に勤務するしがないサラリーマン。

典型的な格差婚で、ピアノを選びに来た蘭子=笠置の方から惚れて、ピアノを2台も買ったのだという。

のんびり屋の藤崎は、せっかちな蘭子に鼻であしらわれ、ほとんど下働きの家政夫と化している。

話の本題は、蘭子が京阪神方面での公演ツアーのため1ヶ月家を空けるところから始まる。

毎朝の通勤は、電車が通る踏切を渡るが、何故か電車には乗らず、「成城学園前」の行先を表示したバスが通るバス停で、バスに乗って通勤する。
銀座が勤務先なのだから、成城学園前から渋谷に行くバスに乗る設定なのではなかろうか。
もちろん渋谷からは地下鉄銀座線に乗り換えるわけだ。
バス路線で確認すると、東急世田谷線が1925年に開通しているから、同線の世田谷駅あたりに該当するのではないか。

ロケ地探索は、どこかに解答があるかも知れないので、この辺にしておくが、藤崎は、蘭子の留守で久々に解放感を味わうわけである。

その留守の世話をする家政婦として、最初、北林谷栄演ずる婆やさんが来るはずだったのが、都合が悪くなり、代打に来たのが、蟻安たか子(山根寿子)という若いバツイチの女性。

要は、いつもは蘭子に馬鹿にされながらアゴで使われている藤崎が、家庭的で世話焼きな、たか子に次第に心惹かれていくという、不倫メロドラマが本作の本篇なのだ。

羽を伸ばした藤崎が日帰りで熱海に行く予定に、たか子を誘い、ついつい遊び興ずるうちに東京行きの終電を逃して、客引きに「お連れ合いさん」と呼びかけられるまま宿を取り、ふた部屋頼んだはずが無いからと一室で夜を過ごし‥‥

という、もう観てても、書いても、恥ずかしくなるばかりのベタ過ぎる展開。

結局、一線を超えたのか、超えなかったのかはボヤかされているが、二人はすっかり相思相愛となり、藤崎も、キッパリと蘭子に別れを告げるつもりが‥‥

慌ただしく予定を切り上げて、神戸から帰って来た蘭子が、
「わて、でけたの。」
「何が?」
「何がって、赤ん坊に決まってるやないの!」
で、別れ話も結局切り出せず、で、藤崎とたか子は泣くの涙で別れを告げるのだった。

って、いくら何でも、無声映画時代の弁士の語りならともかく、戦後も7年も経って、このベタベタなメロドラマは、ちょっと無いんじゃあ〜りませんか。

ってことで、いくら前後を、にぎやかな笠置シヅ子登場でサンドイッチしたのが新機軸とか言っても、そんな木に竹を継いだような詐術には騙されませんぞ、木村恵吾監督よ、

ってなもんで、大負けに負けて、
スコアは 3.0 点

ではまた。

《参考》
*1 ストーリー、キャスト
moviewalker.jp/mv27328/

*2 新東宝データベース 1947-1962
 ※スタッフが詳しい
nipponeiga.com/shintoho/film/1952/19520328.php

*3 邦画(昭和初期)のおすすめ
【ネタバレ注意】映画「惜春」感想/評価/あらすじ|結婚に失望した2人の恋が切なくて素敵
2020.06.26
nihon-eiga.milliwalk.com/sekishun/

*4 新・銀幕のこちら側 2013/06/27
出逢いが遅かったのね「惜春」
oryu.blog53.fc2.com/blog-entry-497.html

*5 KINENOTE みんなのレビュー
mail.kinenote.com/main/public/cinema/detail.aspx?cinema_id=27511

*6 ブギの女王から銀幕のスターへ
特集 笠置シヅ子
2024.3.30〜4.19 シネ・ヌーヴォ
www.cinenouveau.com/sakuhin/kasagishizuko2024/kasagishizuko2024.html
4.4
スター歌手である妻が長期不在中に来てもらったお手伝いさんの暖かさに心打たれる夫。

凄い面白い。ギャグとシリアスの絶妙な緩急!

山根寿子の些細な気遣いに一喜一憂する上原謙がかわいい。泥酔からのブギの痛烈批判&ノイローゼに爆笑。現実とシンクロする笠置シヅ子はよくこの役を受けたなー😂
a9722
3.6
ストーリーはどうってことないんだが、画角や美術やライティングがなんだかいい味あったなあ。
と思ったら美術監督が小津に魅せられた1人、下河原友雄だった!

上原謙が好きだし、笑える部分も多いしこんな映画もあったもんかと、見られてよかった。
こういったテーマではもっと文学的に描いてる作品が多くあるけど、これは地に足はついた、まぁ大衆娯楽的演出にとどまってはいる。
踏み切りの別れのシーンなんて素敵でしょって感じで撮ってるんだろうけど、なんだかわらけてきちゃうよね。
最後踏切は開いて、人の手ではどうしようもない壁は無くなって上原謙がその女を追って行くか行かないか次第なのに、行かないで現実に戻るっていう。
そうだよな、情けないんだよな君は、でもそれが人の世の定めなんだよなって、この数度登場した踏み切りのシーンは実に君たち観客に思わせるでしょう!!って製作の思惑を薄々感じながら、いや踏切で表すんかい!って少しわらけてきちゃうんだな。

分かりやすいといっちゃ分かりやすいし、変に気取ってないといえば気取ってないし。
だけど気取ってない演出の映画の割にカットや画角の美的センスはなかなかよかったりして。
そこが映画を見やすくしていたかも。

今回のシネマヴェーラの特集で大好き上原謙の作品を2つ見たけど、どちらもよかったかな。
こちらはかわいい情けない上原謙を、もう一方の「鶴亀先生」ではちょっと厄介なじいさん先生でだいぶコミカルな動きをする上原謙も見られた。満足。

あと熱海から東京への終電、この時代は24:30なんてあったの!?

以下メモ
泉鏡花、春は、なんちゃら湯豆腐のくだり
ブギウギに文句垂れるくだり
田中春男と伊藤雄之助にわく観客
2人が終電逃すことになってしまった花見ビアガーデン的なところでダンスしてた時に流れていた曲はなんでしょうか…