マグルの血

タクシードライバーのマグルの血のレビュー・感想・評価

タクシードライバー(1976年製作の映画)
4.2
世の中への不満が爆発するタクシードライバーの狂気。

マーティン·スコセッシ、ロバート·デ·ニーロの代表作ですね。暴力を内包した独特な表現力に溢れた往年名作を満を持して再鑑賞です。
多分15年ぶりとかに観ました。当時観たときは、映画のファッション性やサブカル感に惹かれたことが理由だし、強烈な印象はあったけど、心に留まることはなかったと思います。

ベトナム帰還兵の愛すべきクソ人間トラヴィスの狂気。一般的な目線で見るとかなり痛い男。
一方的に社会への不満を募らせ、不平不満を日記にしたためる日々。気になる女性はポルノ映画デートに誘い撃沈。逆ギレして当たり散らす始末。

このわけわかんない男がひょんなことから拳銃を手にいれてから、世の中への復讐を果たそうと淡々と準備する日々と、未成年の売春婦アイリスとの出会い。

ラストカットまで繰り返し使われるムーディーなジャズナンバーやニューヨークのネオン街が、どことなくバイオレンスでエロティックな雰囲気を纏っていてとてもアーティスティック。独特なセリフ回しもどこか文学的。


なんてお洒落な言葉で片付けられないほどトラヴィスがキモい。都会の喧騒と汚れにうんざりした男が唯一出会った女神のような女性を、ストーキングまがいな行為をした挙げ句やっと誘えた渾身のデート先がポルノ映画。当然のように拒まれます。
日々の鬱屈した感情を淡々としたためる様子も陰キャの極みみたいな内容でとても見てられない。
MAX陰キャのトラヴィスが最終的に事を成し遂げるカタルシスがなかなか爽快ではあり、当時はこれをかなり魅力的に感じていた記憶があります。冷静に考えるとめちゃくちゃ変なやつ。

でも改めて鑑賞するとだいぶ感想が変わりますね。考察の奥行きが非常に大きい。

ベトナム戦争の経験者であることが彼の生活や人格に深い闇を堕としていると考えると、行動や発言の一つ一つに共感の余地が生まれるし、エピローグに彼の妄想の可能性という選択肢を与えると悲壮なストーリーがさらに際立つ。
情報はあくまでノイズでしかないと捉えるのもありで、もっとシンプルな社会への復讐劇としても見応えがあります。

散々ディスったトラヴィスですが、実際不思議な魅力があります。端正な顔立ちと惹き付けられるしぐさや発言。個性的なキャラクターで歴史に残る名演と言っても過言ではないはず。表情がすごい。

ジョーカーは本作の影響下にあるそうですが、比較してみると共通項も多いですね。ジョーカーの方がエンタメしてる分、トラヴィスは泥臭さがいい味出してると思います。

何て言うか、たしかにめちゃめちゃ面白い映画ではないんですが、すごい映画観たぞという気分にはなれます。繰り返し
観たいですね。私は好きな映画です。

2024年 18本目
マグルの血

マグルの血