ひでやん

タクシードライバーのひでやんのレビュー・感想・評価

タクシードライバー(1976年製作の映画)
3.1
社会から孤立した男の哀愁と狂気。

タクシーの車内は、腐りきった世界と断絶した殻の中に見えた。その孤独な世界から飛び出せずにいるが、入ってきた客は誰であれ受け入れる。そうやって社会との繋がりを見せるが、会話は鏡越し。

悪に満ちた世界を洗い流そうとするトラヴィスだが、スパイダーマンのそれとは違い、店に押し入った強盗を射殺。殺人が正義となった瞬間である。

その弾丸を上院議員に放てば悪人、ポン引きに放って少女を救えば英雄である。しかし自分はそう思えなかった。アイリスの親から見れば英雄でも、自分の目に映るのはただの人殺し。本作は、「どんな悪党であれ殺しちゃいけない」と言いづらい雰囲気なんだよね。つまんねえ倫理観だなって言われそう。

ベトナム帰還兵のPTSD、不眠症、失恋、70年代の時代背景、目の前にある悪…それらすべてがトラヴィスという人格を形成したと思うが、殺人の免罪符にはならない。彼は「確信犯」である。

確信犯て言葉は、「悪い事だと確信しての行動」という意味で使われているが、本当の意味は「自分の行いが正しいという信念に基づいて行わる犯罪行為」で、テロとかがまさにそれ。随分昔の事件ですが、地下鉄サリン事件とトラヴィスはなんら変わらない。なので共感は皆無。

アイリスを車に乗せて、彼女の家まで送るロードムービーなら彼は英雄だった。ラストが彼の妄想なら納得するが、現実なら「お咎めなしかよ」と言いたくなる。これがまかり通るのなら、世の中の悪人は皆殺されるだろう。

電話中のトラヴィスを映すカメラが、誰もいない廊下を映し出し、そこに電話を終えた彼が現れるのが良かった。銃撃のあとの上から撮る演出、街のネオンの描写は好きだった。
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