無償の施しは、常に無防備な愛。
メキシコ時代のブニュエルが祖国スペインに戻り撮影した問題作。反宗教的な内容がバチカンの怒りを買い、各地で上映禁止に追い込まれたもののパルムドールを獲得。神に仕える者も神を信じぬ者も同じ人間だもの、と暴く人間の本性。
亡き妻のハイヒールを履き、ドレスのコルセットを身に着ける変態叔父さんと、ベッドに灰を積む修道女の夢遊病。この奇妙で滑稽な2人の関係にド変態ワールドの展開を期待したが、罪悪感を背負わされて前半終了。その罪を償うため神の道を歩む後半はカトリックに対する反抗だ。
馬車に繋がれた犬を買っても、別の馬車に繋がれた犬が通り過ぎる。「数人だけ助けても仕方ない」とビリディアナに言うが、犬を買ったホルヘも同じだ。例え数人の乞食でも一匹の犬でも、何もしないよりはまし。けれど、その数人が恩を仇で返し牙を剥いたらたまったもんじゃない。
教師が不在の自習時間。見回りのない修学旅行の夜。上司が不在の職場。親が不在の留守番。神の不在も然り、いい子でいられないのが人間だ。前半は叔父貴に襲われ、後半は乞食に襲われ、神の道から世俗な道へと堕ちゆくビリディアナ。最後の晩餐の構図、焼かれる茨の冠、慈悲への裏切り。宗教の無力さが残酷だった。