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ロシュフォールの恋人たちのukigumo09のレビュー・感想・評価

ロシュフォールの恋人たち(1966年製作の映画)
4.0
1967年のジャック・ドゥミ監督作品。彼の父親は整備士で息子にも仕事を継いでほしいと思っていたが、幼い頃から家族で観劇や映画鑑賞に頻繁に出かけていたことから、ジャック・ドゥミは物語を作ることに興味を持ち始める。彼の場合4歳ごろから人形劇を作るようになり、9歳から小型の映写機を使うようになるなど超早熟な少年で、そのあたりはドゥミの妻アニエス・ヴァルダ監督『ジャック・ドゥミの少年期(1991)』でも描かれている。
短編作品やドキュメンタリーで頭角を現し始めたドゥミに長編デビューのきっかけを作ったのはジャン=リュック・ゴダール監督だ。『勝手にしやがれ(1960)』によって映画史的革命を起こしたゴダールにプロデューサーであるジョルジュ・ド・ボールガールは有望な新人を紹介するように頼み、ゴダールが名を挙げたのがジャック・ロジエ、アニエス・ヴァルダ、ジャック・ドゥミの3人であった。こうしてジョルジュ・ド・ボールガールがプロデューサーとして撮られたのが『ローラ(1961)』である。港町を舞台に男女のすれ違いを描いており、すでにジャック・ドゥミ要素は至る所に見られるものの、低予算作品であったためモノクロでの撮影であった。長編3作目で彼は念願のカラーによるミュージカル作品『シェルブールの雨傘(1964)』を手がける。パステルカラーの画面作りが印象的で台詞が全て歌になっているこのミュージカル作品は、カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを獲得するなど批評的にも興行的にも大成功し、より豪華になった次作『ロシュフォールの恋人たち』に繋がるのだ。

『ロシュフォールの恋人たち』はロシュフォールで年に一度のお祭りが行われる週末が舞台となっている。エチエンヌ(ジョージ・チャキリス)率いる5台のオートバイや白馬、機材を積んだトラック4台からなるキャラバン隊も祭りでの出し物のために輸送橋でやってくる。釣り上げられた床が動き出し反対側まで運ばれる珍しい橋だが、オープニングクレジットが流れるここですでに、ダンスが始まりワクワクさせられる。カメラは基本的に人の目線の高さにありながら、スッと挿入される橋の上からの大俯瞰ショットは現実と夢の世界を行き来するような浮遊感が得られるだろう。ロシュフォールで暮らすデルフィーヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)とソランジュ(フランソワーズ・ドルレアック)はバレエ教室で子供たちに教えているがソランジュは音楽家、デルフィーヌはバレリーナを志しており、いつの日かパリで夢を叶えたいと思っている。彼女たちの母イヴォンヌ(ダニエル・ダリュー)は町の広場の近くでカフェを営んでいる。彼女には幼い息子ブーブーもいるが、彼の父親であるシモン・ダム(ミシェル・ピコリ)と結婚するとマダム・ダムになってしまうということで結婚に至らなかったという悲しい昔の恋を歌う。本作ではたくさんの歌が披露されるが、吹き替えなしで役者が実際に歌っているのはイヴォンヌ役のダニエル・ダリューのみであり、そういう意味でも彼女の歌唱シーンは注目ポイントだろう。
イヴォンヌは気づいていないがシモンは最近楽器店を開くためにこの町に戻ってきていた。母との昔のロマンスを知らないソランジュはシモンの元に楽譜を買いに行き、パリに行った際はシモンのアメリカ人作曲家の友人アンディ(ジーン・ケリー)を紹介してもらうよう頼む。そんなアンディはシモンに会うためにロシュフォールに来ており、ソランジュとは知り合う前に街角で出会い頭にぶつかっており、運命的に出会い運命的にすれ違っていた。
イヴォンヌやソランジュだけでなくデルフィーヌも芸術家志望の水兵マクサンス(ジャック・ぺラン)と運命的なすれ違いを繰り広げる。マクサンスは「理想の女性」の絵はギョーム(ジャック・リベロール)の絵画ギャラリーに飾られている。ギョームはデルフィーヌの恋人だが別れ話をしており、その時ギャラリーに飾られている「理想の女」はデルフィーヌに酷似している。デルフィーヌとマクサンスは数秒差の入れ違いなどはありながら最後の最後まで出会うことなく、芸術的なまでのすれ違いが行われる。

エチエンヌの仲間の女性2人が急に脱退してしまい、デルフィーヌとソランジュがお祭りでパフォーマンスを披露することになる。彼女たちがハワード・ホークス監督『紳士は金髪がお好き(1953)』のマリリン・モンローとジェーン・ラッセルを意識した赤い衣装に身を包み煌びやかに歌い踊るのが本作のハイライトだろう。
ドゥミの作品にはほろ苦い結末や悲劇的な結末のものが多いが、ハリウッドのミュージカルの大スターであるジーン・ケリーの出演からも分かるように、全盛期のハリウッドミュージカルにオマージュを捧げており、そういった作品のようにハッピーエンドを迎えるのも素晴らしいところだ。
ジャック・ドゥミの妻アニエス・ヴァルダはシモンの楽器店にやって来る修道女5人組の中の1人として顔を見せている。そのヴァルダは1992年に『25年目のロシュフォールの恋人』を監督している。映画公開25周年を記念してロシュフォールの街で行われた式典やヴァルダが『ロシュフォールの恋人たち』の撮影当時に撮っていた撮影風景、『ロシュフォールの恋人たち』のオープニングとエンディングに出ていたバイク乗りのエキストラ、少年ブーブー役の子供などの25年後のインタビューなどを交えたドキュメンタリーで、本編と合わせて観ればより一層楽しめるだろう。
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