ukigumo09

ロール・ザ・ドラム!のukigumo09のレビュー・感想・評価

ロール・ザ・ドラム!(2019年製作の映画)
3.5
2019年のフランソワ=クリストフ・マルザル監督作品。スイス出身でジュネーブの大学で映画を学んだ彼は、テレビドラマなどのプロデューサーもしているが本作は彼にとって3本目の長編劇映画である。
この作品はヴァレー州の架空の村モンシューを舞台としている。この村は架空の村だがヴァレー州の人々が実際に大切にしている文化があり、それがブラスバンドの大会だ。本作『ロール・ザ・ドラム!』では2つのバンドグループの諍いの種は政治的スタンスであるが、以前はある家族間の争いによって対立が起こり、エスカレートしていくいう事柄が実際にあったようだ。その際に同じバンドの人がやっている銀行やバーなどを利用し、生活におい2つのバンドのメンバーが交じり合うことはなく、他のバンドのメンバーとの結婚も許されなかった。フランソワ=クリストフ・マルザル監督はこのバンド間の争いをコメディとして自作に取り入れている。そして時代設定を1970年にして世界的に見てもかなり遅れたスイスの女性参政権や現在も話題なっている移民の問題も同時に取り扱っている。

1970年の4月、モンシュー村では13年間バンドの責任者をしているアロイス(ピエール・ミフスッド)が連邦音楽祭の出演に向けて情熱を注いでいた。この音楽祭にはオーディションがあり、だれでも出演できる訳ではない。実際アイロスが責任者になってから音楽祭に一度も出ておらず、彼はオーディションの本番で失敗する夢でうなされるなど、文字通り出演を夢見て日々練習を繰り返していた。しかしバンドのメンバーたちはアイロスに対してリーダーの資質を疑っており、密かに地元出身のプロの指揮者ピエール(パスカル・ドゥモロン)を呼び寄せていた。呼ばれてやってきたピエールは当然指揮をするのだが、アイロスも引き下がらず、小さな村にバンドが2つもできてしまう。ずっと田舎で過ごしていたアイロスの伝統を重んじる考え方と違い、都会や外国での生活を経験しているピエールはバンドのメンバーに女性やイタリア人移民の労働者を入れるなど全く違った方向性であるため2つのバンドは激しく対立していった。
その対立の原因の一つはアイロスと家族の問題であった。アイロスの妻マリー=テレーズ(サビーヌ・ティモテオ)は最近、女性参政権獲得の運動を始めて、アイロスと言い争いになっていた。そこに結婚前、アイロスと三角関係であったピエールが帰ってきたのでアイロスは気を病んでいる。またアイロスとマリー=テレーズの娘コリネット(アメリー・ペテルリ)はイタリア人労働者でありピエールのバンドのメンバーになったカルロと許されぬ恋の真っただ中のようで、アイロスはこちらにも悩まされている。
アロイスはピエールのバンドの妨害をしようと試みる。移民労働者たちには国外退去になると脅したり、ピエールはマリファナを所持していると警察に密告したりと手段を選ばない攻撃をしかけるが、アイロスも自分たちの衣装が謎の盗難にあい案山子に着せてあるのを発見したり、自分たちのバンドメンバーの牛にペンキで落書きされたりと泥仕合の様相だ。4月12日、ヴァレー州の女性に初めて投票権が与えられた日、2つのバンドはそれぞれ村を演奏しながら練り歩くことを予定していたが、鉢合わせに大喧嘩に発展する。

この映画では女性の権利や移民についてだけでなく恨みや復讐、愛や友情、異質なものを受け入れる寛容さなどさまざまなテーマが見て取れるが、ラストで女性たちによって奏でられる音楽と相まって観終わったあとは爽快な感覚が得られるだろう。
ukigumo09

ukigumo09