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ぼくらの七日間戦争のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

ぼくらの七日間戦争(1988年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

厳しい校則や親からのお小言に嫌気がさした中学1年生11人が、廃工場に立てこもって大人たちに宣戦布告する。
管理教育に反抗する80年代少年少女たちのバイブルとなった、宗田理の同名小説の映画化作品。

ジュヴナイル感覚に満ち、エンタメ性溢れる青春映画の佳作。

公開当時の私は高校生だった。
本作で描かれる中学校は私の母校に近い。
厳しい指導をする教師は、私の母校にもいたし、当時どこにでもいたと思う。
遅刻すれば校門は閉ざされ、女子のスカート丈は㎝刻みで測られることはあった。
校則違反の髪型の男子は職員室でバリカンで丸坊主に刈られ、逆らえば竹刀で叩かれた。
だが、恐怖で統率しないと授業が成立しない校内暴力の時代があった。
教師は再発を防ごうとしていたのだろう。
横浜銀蝿や積み木くずし、ビーバップハイスクールや尾崎豊の時代と言えば分かるだろうか?
学校の治安を守るため、教師は必死だった。
学校はまるで社会の縮図で、教養よりも社会の厳しさと理不尽を教えてくれた。
今となっては感謝しているくらいだ。

その当時の空気感を残す本作は、とても懐かしい。
本作のような教師の横暴さは、今だったら新聞沙汰であるが…。
登校時、生徒の挨拶に教師側が一切返していないことから、両者の関係性は一方通行であることが伺える。
佐野史朗のような嫌味な教師、笹野高史ような体裁ばかりを取り繕う教師、大地康夫のような高圧的な教師、倉田保昭のようなすぐ叩く教師、加来千賀子のような癒しのマドンナ教師…どの学校にもそんな役割分担が存在していた。
口先では自主性を詠いつつ、子供はただ大人に従えばいいと考えており、少しでも理想像を外れた者には暴力も辞さない。
しかし、最も問題なのは、教師が生徒の話を全く聞かない、受け入れない、理解を示さない。または行動しないということだ。
本作に登場する親もまた然りである。

一部の生徒たちが圧政に立ち向かわんと廃工場に立てこもり、学校をサボタージュする。
大人たちの抑圧に反抗したい、解放されたいという気持ちは、恐らく誰もが子ども時代に抱いたことのある思いだろう。
普通は夢で終わることを、劇中の少年少女は軽々とやってのけるのだから、痛快なことこの上ない。

加えて彼らのキャラクター設定も素晴らしい。
決して一枚岩では無いが、それぞれが輝ける場所や瞬間があり、みんな魅力がある。
当時のスーパーアイドルだった宮沢りえをはじめとする少年少女たち1人1人の個性や感性を感じられる。

だが、確かに他のレビューでもある通り、話の構成が甘い部分や、ツッコミどころも多い。
法律や常識がどうしても先に思い浮かんでくる大人の目線で見ると、滑稽にしか見えない。
大人が悪い!という描き方が紋切り型ではあるが、子供の視点でとらえれば、さほど違和感は感じない。
頭を空っぽにして、子供の頃の自分のような感覚で見るべき。
リアルさよりも感覚的な面白さが先行した時代ならではだ。

特筆すべきは、生徒も先生もそれぞれの立場から、本気でぶつかり合っているということ。
これがこの映画のテーマであり、最も素晴らしいところだろう。
この時代の子供と大人の対立を面白可笑しく描いているが、子の親になれば、どちら側にも共感する事が出来るはず。

この本気のぶつかり合いは、現代で最も失われているモノだ。
嫌なことがあると、今や大人も子どもも「傷つけたくない」「傷つきたくない」と争いを避けるが、ネットの世界で毒を吐き、陰口で他人を傷つけるという犠牲と矛盾を行っている。
互いに正論を言い、時には喧嘩してでも折り合いをつけるなんて人間関係作りは、今や見られない。
相手が嫌なら永遠にサヨナラ。
現実が嫌ならネットの仮想現実に逃げ込んで、人間関係作りが希薄になっている現代こそ異常に見えてくる。

演出面では、脈絡なく戦車が出てきたり、終盤のバトルで中学生が手作りするにはあり得ないトラップなど、荒唐無稽すぎて残念な部分も確かにあるが、抵抗を通して子どもたちが逞しく成長する姿を描くことに重きを置いているのが良くわかる。

ラストに花火が打ち上がって、それでどうしたの?なんて冷めた視線で見てはいけない。
たかが中学生が、ここまでやってのけるのだから、「アイツ、やるなぁ…」と親が呟くのも当然。

現在ではこの作品を視聴しても、現在の若者たちに伝わるモノや響くモノは少ないだろう。
教師はクビを恐れて丸くなり、親はDVと噂されること恐れて、子どもに関わろうとはしない。
(逆に過保護・過干渉の親もいるが、それらの親は本作の教師と一緒で、子を無理矢理従わせるケースが多い)

映画は花火が消えるのと同時に彼らの夢の時間は終わり、少年少女は何事もなかったように日常に戻る。
きっと思春期とはそういうものだ。
この映画もきっとそういう映画なのだ。
誰にでもやってくる嵐のような思春期・反抗期を七日間に凝縮すると、こんな話になるのだろう。
宮沢りえの美しさと共に、あの頃の瑞々しい感情が永久保存された作品である。
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