「東京暮色」を見たときに、
結末のあまりもの酷さに心を打たれ、
主演女優の名前をすぐに調べてですね、
ちゃんとその後も女優さんとして活躍されてるのがわかって安心したんですよ。
その女優さんがまさに有馬稲子さんで、
今作でももう文句なしに輝いてらして、
あー本当に幸せそうでよかったと思ったのに
旦那さんが呆気なく死んじゃって、
最終的にはなんの因果か重〜い十字を背負わされますよね。
いや、奥さんはもちろん悪くないし、
松さんも悪気はないのだけれど、
あんな風に死なれては嬉しさよりも
罪悪感の方が残るのは間違いないじゃない…
結局、美しい上に不幸になる感じ、
東京暮色と重なる部分と感じなくもない。
という感じで有馬稲子は最高なんですが
言うまでもなく勝新も最高で、
殴るわ、走るわ、飲むわ、歌うわ、
最終的には太鼓まで叩いて人々を沸かせ、
欲を募らせた罪の意識からのたれ死ぬ。
あまりにもプラトニックな恋愛感情が根底にあるからか、
乱暴者と言いながらもマッチョさはあまり強調されず、
むしろ不運さと器用さのアンバランスさが、
しっかりと胸を締め付けてくる。
奥さんがボンボンに言うわけです。
あの人は不運なだけなんだと。
でもそうは言いつつも、
独り身の男女であるにも関わらず、
奥さんは最後まで「対象」として見ることはない。
それは松さんにしてもそうで、
決して交われる関係ではないと承知してる。
それがとにかく切なくて切なくて。
あのお酒の宣伝ポスターを使った演出は秀逸。
日本軍が絶好調だった時代を背景にして、
不運でありながら徳を通そうとした人間の姿を
ただ美談で片付けようとはしてないなって感じたな。