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無法松の一生のmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

無法松の一生(1943年製作の映画)
3.8
岩下俊作の小説「富島松五郎伝」をもとに脚本を書いた伊丹万作が病気になったため、稲垣浩が代わって監督。
北九州・小倉を舞台に、目上の未亡人と子どもに親身になって尽くす人力車夫・松五郎の半生を阪東妻三郎の主演で描く。
モノクロ、スタンダードサイズ
(1943年、80分)
今回の鑑賞は4Kデジタル修復版。

明治30年、小倉。
"無法松”と呼ばれるバクチ好きで喧嘩っ早い人力車夫、松五郎(阪東妻三郎)は、気のいい男。
ある日、堀に落ちてけがをした泣き虫の少年・敏雄(沢村アキオ=後の長門裕之)を助けたことが縁で、子どもの父吉岡陸軍大尉(永田靖)の家に出入りするようになる。
ところが、吉岡大尉は病気で急死。未亡人になった夫人のよし子(園井恵子)は、気の弱い子どもを男らしく育て上げることができるか心配して、松五郎を頼りにする。
松五郎は後見役として、親身になって"ボンボン"の面倒をみる。

思春期になった敏雄(川村禾門)は、松五郎とは疎遠になり、五高に入学して、故郷を出る。

そして、小倉祇園太鼓の日、夏休みのため敏雄が五高の先生(戸上城太郎)を連れだって、久しぶりに帰省する…。

見せ場の小倉祇園太鼓の連打から終盤へ…。

~その他の登場人物~
・結城重蔵(月形龍之介)
・宇和島屋(杉狂児)
・撃剣の先生(山口勇)
・巡査(葛木香一)
・熊吉(尾上華丈)
・松五郎の父(香川良介)
・松五郎の継母(小林叶江)
・松五郎の少年時代(町田仁)
・茶店の老婆(二葉かほる)

「吉岡さんとでも呼んでおくれ。
吉岡さん? 何だか初めて会う人のようだな」

阪妻の現代劇における代表作で、豪放だが愛嬌のある明治男を演じて素晴らしい。
宝塚少女歌劇団にいた園井恵子は同劇団を既に退団していた上級生の小夜福子の推薦で起用されたが、この作品の未亡人役にぴったりでとても印象深い。
なお、彼女は、1945年8月6日、所属していた移動劇団「桜隊」が活動の拠点としていた広島市で原爆投下に遭い、同月21日に32歳で亡くなっている。とても悔やまれる。

松五郎が夫人に密かな愛情を告白し「ワシの心は汚い」と言って彼女のもとを去るシーンは、戦時下の時代を反映して内務省の検閲で削除され、戦後もGHQにより一部がカットされた。
無念が残こり完全版を目指した稲垣監督は、1958年、三船敏郎、高峰秀子主演でリメイクし、こちらはヴェネチア映画祭グランプリを獲得した。そちらも是非見てほしい。

撮影は宮川一夫。継母に虐められた子どもの松五郎が父親に会いに行くシーンや、
松五郎が走馬灯のように過去を振り返るシーンでのカメラ(そして編集)の見事なこと。
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