ナイトリッチ

皆殺しの天使のナイトリッチのレビュー・感想・評価

皆殺しの天使(1962年製作の映画)
3.8
★嫌味なブルジョワたちがお屋敷でパーティーをする。帰る時間になるも、何故だかみんな帰らない。夜が明けたら、パーティールームから出られなくなっていた。

#出られなくなったって言っても、扉が開かなくなって……とか見えない壁に阻まれていて……とか、出られない明確な理由ってないんだよね。
まずそもそも部屋に扉が付いてないから、出入りし放題、後々パーティーのドッキリ用に使うはずだった羊たちが走って入店してくるくらいだし。窓もあるから助けを呼ぼうと思えば呼べる。でもしない。
ただ「この部屋から出られない」っていう認識に勝手にみんな怯えてパニックになってる。

#出ようと試みる人があっても、何故か「無理だ……」「あなたが先に行ってください」「誰のせいで部屋から出られなくなったんだ?」と揉める始末。

#いや、別に出ればいいだけじゃん(笑)って話なんだけど、本人たちは大真面目で、いよいよ出れないよ〜😢って正気を失い、飢えたり自殺したり争ったりし始める。
紳士気取りのブルジョワの皆さんだったのに、段々と理性を失って、女の人の寝込みを襲ってみたり、殴り合ったり罵り合ったりする。

#漠然と見てると何だこりゃなんだけど、めちゃくちゃ風刺的というか、皮肉な話だよね。
「出りゃいいじゃん(笑)」って見てすぐわかる・考える必要もないくらいすぐにわかることなのに、ああだのこうだの理由を付けて難しくしてしまって、結局誰も行動に移せない。
何かあった時の責任や体裁ばかりに足を取られて、互いになすりつけ合って出方を伺っているうちに、どんどん状況が悪化して、理性も文化もへったくれもなくなる。

#当時の社会情勢にも寄せてるのかなあ。
使用人の人たちは悪いことが起こるぞって虫が知らせたのか、夜のうちに身ひとつで逃げ出すんだけど、
右にならえの世間体や優雅に群れることばかり考えている富裕層は腰が重くて、講釈ばかり垂れた末に逃げ遅れる。

#シュルレアリスム作品っていう扱いなんだね!
監督はダリと一緒にあの『アンダルシアの犬』を撮ったルイス・ブニュエル。
社会への遠回しな皮肉を作品としてぶつけてくるこういう態度、めちゃくちゃ良い……。