意識の旅
『サイレントヒル』に影響を与えたほどの実力を誇り、観る者を深層心理の迷宮へと引きずり込む、圧倒的なサイコロジカル・スリラー。実存主義的な悪夢の具現化とも言える作品です。主人公ジェイコブ・シンガーの崩壊しつつある現実感覚に共鳴し、次第に恐怖と疑念に苛まれていきます。
物語は、ベトナム戦争の後遺症に苦しむジェイコブが、自らの記憶の断片と幻覚に翻弄される姿を軸に展開。彼が直面する超現実的なビジョンや不可解な出来事を通じて、トラウマと罪の意識、そして救済の可能性を探求します。画面に漂う不穏な雰囲気は、巧みなカメラワークと暗示的な照明によってさらに強調され、観客はジェイコブの視点を通じて、現実の崩壊を目撃することになるという強制参加型なのも興味深いポイント。
本作の真髄は、そのテーマの複雑さと構造の巧妙さに詰まっています。戦争の恐怖と帰還兵の心理的苦悩を描く一方で、宗教的な象徴や哲学的な問いかけが随所に散りばめられています。特に、死後の世界や生と死の境界に対するアプローチは、現実と幻想の曖昧な境界を絶妙に描き出しており、観客を深い思索へと誘ってきます。
単なるサイコ・スリラー映画としてではなく、観る者の心に長く残る哲学的な寓話としても成り立っている本作。ジェイコブの旅は、戦争の犠牲者の物語でありながら、同時にすべての人間が内包する存在の不安、そして死後の世界への畏怖と希望を映し出しています。ラストはあれで良かったとも思える。
2024.8.31 初鑑賞