垂直落下式サミング

ブロードウェイ・メロディーの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.0
ショウビスなキラキラ世界の舞台裏ミュージカルというジャンルの開祖。歌と音楽ともに映画のために書き下ろされたものらしい。世界初の全編トーキーによるミュージカル作品なんですって。
1920年代の舞台演芸の裏側っていう設定で、面白さはしっかりと担保されている。姉妹がオーディションにいくところとか、女性出演者の化粧室のシーンとかは、覗き見しているみたいでドキドキ。
当時のハリウッドも性的な表現に関しては厳しかったはずだけれど、ヘイズコードの成立・実施以前だからかやりたい放題。白黒の映像でありながら、肩や胸元のひらいたセクシーな衣装で肌を露にした踊り子たちの色気が漂っており、涼しげに演技する主演の奴らよりも、その後ろで程よく汗ばみながらポーズを決める健康的な肉体に目がいく。
実際、主演の女の人たちは、あんま歌も躍りもうまくないし、振り付けも微妙。バックダンサーたちのほうが背筋のとおった立ち姿をしていて、彼女らを動き回らせるほうが面白い絵になったのではないかと思う。
時代を考えれば当然だけれど、撮影はほぼずっと定点であんまり印象的なシーンはなかった。人物のバストショット多めで、歌曲への助走をつけるようなセリフ回し、舞台の演出論をそのまんま。
にしても、本筋のストーリーはひどいなー。不道徳&非倫理なおはなしだと思いましたけれども…。要は浮気のはなしだし、オッサンが長年付き合った彼女に飽きてきたから、若い妹のほうに取っ替えるって、とんでもなくキショやば☆
負け犬浮気野郎よりも、あの手この手で必死こいて高嶺の花を口説いてた富豪で紳士のジャックさんのほうがステキだと思いました。
姉やロリコンが、アイツは酷いやつで最悪だからやめときなって妹がデートに行くのを止めるけれど、実際に悪いことしてたり被害にあってるような人はいないし、友達(取り巻き)も多いから、売れない俳優女優の妬み嫉みのやっかみ根性に見えてしまう。実際のところ心配なのが半分で、あとは私怨と嫉妬で残り半分の隙間埋めてるみたいな…しょーもねえ!
でも、ジャックさんのほうも、わりとずっと女の前できっちり紳士的に振る舞ってたのに、拒絶されたら急に強引レイパーみたいな。脚本の都合で変わり身。めっちゃご都合じゃん。
結局、最後までジャックは観客にとって評価不能の人物でしかないから、あれでよかったのかどうか、僕にはわからないまま幕引きをむかえていました。なんかそれなりに締まった風の大衆娯楽っぽい佇まいだけれど、キャラクターに芯が無さすぎてむしろ難解なんじゃないかな?
プロモーターおじさんの吃音ギャグとか、ちっさいオッサンの脳足りんギャグとかにも、時代を感じる。ルッキズム、エイジズム、セクシズム、いろんな欺瞞ぜんぶ乗っけで役満状態。時代ですね。もうそろそろ、こういうのを古い価値観だとかいって、面白がってちゃいけないんじゃないかって気もしますが…。『バービー』のあとにみて、温度差にのぼせ上がってしまったのでした。