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モンスターズクラブの書庫番のレビュー・感想・評価

モンスターズクラブ(2011年製作の映画)
1.0
2012年4月21日 渋谷「ユーロスペース」で鑑賞。

正直に言うと、2012年度4月21日現在、一番期待を裏切られた作品。

『青い春』や『空中庭園(←原作既読)』と言った作品で評判の高い、豊田利晃監督の最新作。
そして”『産業社会とその末来』で自然回帰を謳い、モンタナ州の山奥の電気もガスもない山小屋から全米各地の航空業界および金融関係者などに爆破物を贈り付けて数名を殺害した、所謂「ユナボマー事件」”をモチーフにした作品だと聞き、否が応でも期待は高まっていた。

しかし蓋を開けてみると、ユナボマーことセオドア・カジンスキーの表面的な設定だけを借りただけ。
瑛太演じる主人公が、ただただ家族を亡くした喪失感に苛まれ、錯綜し、内なる世界に折り合いを付ける様な展開の作品でガッカリ・・・。
勿論モチーフと謳っているだけであるから、セオドア・カジンスキーの半生をなぞるような脚本や演出である必要は無い。
しかし主人公の混迷が生み出した、死者である筈の兄と弟が主人公を死への世界へ誘うという演出が主軸になる展開については、申し訳ないが凡庸な感じだという思いを禁じ得なかった。

良一(主人公)や兄は、日本の社会システムに対する批判を何度も口にする。
それらは「ユナボマー」から借りたと同時に、学生時代にバブル経済を目の当たりにした監督の 思いそのものだ。

~「なんてバカな社会だと思ってました。そして社会は基本的に変わっていないし、僕も変わらない。
僕も40代だし、そろそろ明確に表現してしまおうと」~
(”朝日新聞:社会に問う僕の声明 豊田利晃監督「モンスターズクラブ」”より抜粋して引用)

願わくば、豊田監督がそれらのテーマを託した主人公の信念やそれが揺らぐ様は、死者(それも身内)や死神といった幻影を使わず表現して貰いたかった。

園子温監督作『ヒミズ』を鑑賞していなかったら、感想もまた少し違うものになっていたかもしれないとの思いが日に日に強くなるのを感じている。
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