メランクさん

ピアノ・レッスンのメランクさんのレビュー・感想・評価

ピアノ・レッスン(1993年製作の映画)
5.0
ジェーン・カンピオン作品3作目の観賞。
もう完全に好き。
浜辺に佇むグランドピアノ。
ビジュアル的な美しさが形だけじゃない。
エイダの孤独な戦いを絵的にきっちり表してる。
すげーわ、この作家は。

「声を出さない」主人公にとってピアノこそ声であるのに、
夫となった男はそのことを全く理解しようとしない。
そもそも話さない女性であるとわかった上で受け入れ、
到着した瞬間から値踏みはじめる様子からも、
彼が娶るということをどう捉えているかは明白。

懇願されてもピアノを浜辺に置き去りにし、
ハーヴェイカイテルの申し出を受けたら断りもなく土地と交換しちゃうし、
彼女を人として受け入れる努力をしない。
「所有」こそ彼の興味の全てであり、
その空虚さは彼の家を取り囲む焼けこげた木々としても表現されている。

一方でハーヴェイカイテルは土地に馴染もうと努力した人だし、
中に入ってこう、理解しようとする意志がピアノを発見し、
彼女を発見する。

ハーヴェイカイテルとしても閉ざされたニュージーランドは逃避の地だったんだろうし、
彼女の発見によって再び本土へと帰還する。
彼女は代弁者たるピアノとも決別でき、
いよいよ新しい言葉を手に入れようとする。

ピアノ、開拓地、海というメタファーが
エロく美しく、また残酷に人間を描く。
そういえばパワーオブザドッグもハッピーエンドだったっけね。