荻昌弘の映画評論

暁の雷撃戦の荻昌弘の映画評論のネタバレレビュー・内容・結末

暁の雷撃戦(1944年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

 大西洋上で船を撃沈され、ボオトで波間に漂っている英国船員の一団と、ニュウヨオクから本国に向う英国船とをカット・バックして、この二つが落合う所へUボオトの出現というクライマックスを持って来た海のドキュメンタリ。
 単純ながら一応このように筋があることは、たあいなく見る人にこの作品を劇映画と受取らせるかもしれぬ。但し作る方にとっては、筋は輸送船団員のありのまゝの姿という描写目的を最も有利に示すための方便にすぎないから、そこを悟るか悟らないかでこの作品に対する評価は可成りの変動を持つだろう。幾分は仕方のないことでもある。
 戦時中、政府直属のプロで製作されたというだけで戦意高揚のスロオガンが浮かんで来るが、これを見るとむしろあまりに悠然と落着き払ったブラフのなさに、戦中戦後を通して誇張と罵声に馴らされて来たぼくらはびっくりするのである。
 もっとも逆説的に言えば、ドキュメンタリだからといって必ずしもものの真実が表わせるとは限らないということをこの作品は教えているとも言えるが、ともかく、海・船そして人という、与えられた課題の対象を冷静・忠実にみつめることによって、そこからにじみ出す生命にみちた有機的な現実感を的確に掴みとる、その、ものを客観視する態度の誠実さだけは、貴重な感動をぼくらに提供することは疑いない。
 ドキュメンタリはこうこなくっちゃいけないーーというより、こういう態度を執れる国民が生み出す映画分野としてのドキュメンタリの特徴を少しでも理解するための材料として、これに「暁の雷撃戦」などと曰くありげな題をつけねばならぬ国にとっては絶好の、他山の石に違いない作品である。
『映画評論 7(6)』