荻昌弘の映画評論

ハスラーの荻昌弘の映画評論のネタバレレビュー・内容・結末

ハスラー(1961年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

 向う(アメリカ)の批評家には、えらく評判のいい作品である。私は、それほどの傑作とも考えない。
 ただ、最近のハリウッド映画としては、新鮮な題材と、オーソドックスな芸術家気質でひたすら、「人間」を描こうとしている。その意欲の真剣さ、みずみずしさ、綿密さが注目に値するだろう。あまりにもボリュウムで売る大作ばかり多いからね。
 ポール・ニューマンがいい。映画入り以来はじめて、的の真中を射当てた役、といってもいい。玉撞き賭博のスリルと優越感と安楽さから足がぬけず、といって恋愛としてはまだ甘ったれのぬけない小僧っ子で、大試合になれば度を踏み外すし、女(バイバー・ロウリー)と同棲すればどうしても「姉さん女房」じみた関係に置かれてしまうーーそんなチンピラ勝負師の鮮やかなイメージが、軽妙善良なハシャギ屋で、しかもどこかわびしくヤクザで影の薄い彼の個性から、ピタッと匂い出している。彼の好演によってこの主人公がじつに親身にイキイキと伝わってくるために、映画もまた抵抗感のない自然さでわれわれの胸へ落ち込むのである。
 ロバート・ロッセンの演出も、この彼のよさを十分信頼しきって、いつもの四角張った律儀なリアリズム描写を、ただケレンなく押し通した率直さが成功していそっちよくる。
 へたに主人公の特異さや感傷を誇張すれば、「黄金の腕をもった男」の亜流になってしまったろう。ビリヤード場面の球の動きにだけ凝れば、単に異色の心理サスペン映画に終ったはずだ。前半のヤマであるミネソタ・ファツ(ジャッキー・グリースン)との試合場面も、主人公がパイパーと知り合う朝のバス・ターミナル(このシーンの冷やかな生活的情感は感心した)も、演出の真正直なすなおさが、却ってドライな迫力に達し得たのである。
 しかし、アメリカ映画がもしこの程度で、「下ずみの現代生活からナマの人間を彫り出せた」などと自讃するなら、まだ甘いといわざるを得ない。
 この物語をそっくり日本の現代劇に置きかえたら、そのままで股旅ヤクザの人情劇ができあがるだろう。今のすぐれた欧州映画などが人間や社会をみつめる眼は、もう少し深いところへ残酷なつめたさで画している。
『映画ストーリー 11(6)(130)』