見ていて涙が止まらなかった。自身が同じ境遇に陥ってしまったら、同じように人間としての自分にしがみついていられるだろうか、という恐怖と絶望感からくる、自らの矮小さを突き付けられる涙だった。
決定的に違うのは、彼は元編集長で何不自由なく暮らしていた富裕層であると言うこと。もしも同じ病に冒されたとして、同じような取り組みや設備のある病院にお世話になれる可能性は限りなく低く、この国ではまず間違いなく貧乏人は医者にかかる事すら出来ずに、珍しい症例としてモルモットにされるのが関の山だろうと思う。
感動の実話とするレビューが多いけれども、勿論、片目だけで意思の疎通、執筆、出版、をやり遂げた事も、それに至るまで希望を失わなかった事も素晴らしいに違いないけれども、それ以上に、ここまで周りが尽くしてくれる財を持った人間は一握りである、という事実やそれに該当しない人間にまで思考が及んでしまい、たまらなかった。
