菩薩

あるじの菩薩のレビュー・感想・評価

あるじ(1925年製作の映画)
4.5
素晴らしい、映画史上最も忌み嫌われるべきである男性の物語は映画史上最も幸福なラストカットへと導かれる。映画史上最強のフェミニズムムービーことジャンヌ・ディエルマンに先立つこと50年、既にマルクス主義フェミニズム映画の完全体をここに見る。資本主義社会の中で生産性だけがものを言い家庭に於いてそれを下支えする「主婦」の肉体・感情労働に対する対価は全く顧みられない中、小さな王国の中で容赦なく専制君主制を敷く暴君の失墜。虐待と言える状態に晒されているにも関わらずその状況を直視したくないが為か、なんとか理由をつけて夫のケアに回る妻の姿勢はグロテスクであるし、妻が去った後に娘がさも当然の様にケアに回ろうとする構造も非常にグロい、そこに鉄槌を打ち込む(敬意を込めて)ババアの豪胆さが天晴れである。自らに当然の様に向けられていたケアの一切を剥奪され自分の特権性にようやく気付くあるじ、そこからの心変わりの早さと本来であれば付き纏う金銭的状況…なんて現実問題はあるが、男性が自ら下駄を脱ぐ必要性を既に100年も前にはっきりと宣言しているのに驚かされるし(同時に全く変わらぬ現状に絶望もするが)、終盤の多幸感に酔いしれるのは私だけではないのでは…。教訓じみてはいるが誰でも分かる、誰でも楽しめる優しいドライヤー、最後にもう一度敬意を込めて、ババアは最強!!!
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